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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-29-1.蓮美と黒服との口喧嘩【霧竜守影姫】

「だぁかぁらぁ! 帰れつってんでしょ! ここまで連れて来てくれた事には礼は言うけど、こっからは女三人仲睦まじく過ごすんだからー、帰りは電車で帰るつってんでしょ! ほら、さっさと帰りな!」


「いえ、蓮実さん、僕は組長から護衛を命じられている立場ですし、ここで、はい分かりましたと帰る訳にも……決して邪魔などしませんし口も挟みませんので何とかそこは……絶対に迷惑はかけませんので!」


「あぁ!? アンタね、声や口調は穏やかだけど見た目が物騒なのよ! 突っ立ってるだけで周りの目が集まって迷惑なの!」


「そ、そんな言い方……僕は蓮美さんに万が一の事があったらと思って……」


 目の前では、黒塗りの高級車の横で蓮美と黒服の男が言い合っている。

 もうかれこれ十分位経つだろうか。私も燕も間に入れず、ただその様子を見て終わるのを待つしかなかった。


 黒服の男の名は立和田純輔たちわだじゅんすけ。名前はここまで来る車内で聞いた。色黒の肌で、赤髪に染められた髪には所々剃り込みが入っている。体がごついと言う訳ではないがかなりの長身で、蓮美の言う通り、近くに立っているだけでも人目を集めそうだ。

 言い合いをしていると言うのもあるかもしれないが、現に今も人目を集めてしまっている。


 時間が気になるが、いちいちスマホを取り出すのも面倒だ。やはり、卓磨に腕時計を預けたのは間違いだった。よく考えたら、卓磨が他の女子にどう思われようがどうでもいい事だった。なぜあの時、卓磨に時計を渡そう等という気になたのか、自分でも分からなかった。


影姉かげねぇ、そろそろ止めないとさ、こっとも何か恥ずかしいかも……」


 燕も困り顔で辺りを見回している。私としてもあまり周りの視線を集めるのは好ましく思っていない。だからと言って仲裁に入るのも面倒臭い。


「燕、他人のフリをするんだ。少し離れよう。人ごみに紛れれば赤の他人だ」


 そう言って燕の手を引きその場を離れようとした所で、丁度話の決着がついたようだった。


「わ、わかりましたよっ。そこまで仰るのなら僕は帰りますからね! 後悔しても知りませんよ!」


「何に後悔するってのよ、未練がましくチラチラ見てないでさっさと帰りな!」


「ホントに知りませんからね! 僕が組長に怒られても!」


「アンタかい! アンタが怒られんのかい! アンタの事なんざ知るかっつーの!」


 立和田はその返事を聞くと肩を落とし悲しそうな顔をして車に乗り込み走り去ってしまった。

 それを笑顔で見送る蓮美。何事かと見物していた野次馬も、年端かも行かない少女が、長身の厳つい男を言い負かしている珍しい喧嘩が終わってしまった事に、つまらなそうに散開して行った。


「蓮美、良かったのか?」


「いいのいいの。どうせ新米組員だし、護衛つったって私のお守り任せられただけで、いざとなったら何も出来ないんだから。顔見たのだって、正直今日初めてだったしね。それに、燕ちゃんだって、あんな物騒なのに近くをうろつかれたら緊張しちゃうし恥ずかしいわよねぇ?」


「え、や、まぁ……あはは。ナンパ避けとかには良かったかも? なんて?」


「あはは、そう言われりゃそうね」


 燕の返答に笑顔を見せる蓮美だが、振られた燕は困り顔である。今の一件で十分に恥ずかしい思いはしたと思うのだが。

 そんな燕を見て今度は私に話を振ってきた。


「それより影姫、ずっと気になってたんだけど今日は着物じゃないのね。制服姿と着物姿しか見た事なかったから何か新鮮だわ」


「ん、まぁな。燕が選んでくれた服なんだ」


 なんと言うか、ヒラヒラした服で違和感がすごくあるのだが、折角燕が選んでくれたと言う事や、鞘の問題も解決したという事もあり、最近は日常生活の中ではなるべく時代似合った洋服も着るようにしている。


「へぇ、いいじゃん。私も燕ちゃんに選んでもらおうかなぁ? なんつって。私の服って、今までの生活が生活だったから、地味なのしかないのよねぇ」


「そんな事ないですよ。可愛いと思いますっ。ね、影姉」


「あ、え? お、うん。可愛いんじゃないか?」


 最近の流行と言う物が全く分からないので、とりあえず同意しておこうと思い、蓮美の姿を見つつ一つ頷く。なんというか、私や燕とは違って、男寄りの服装のような気がする。しかし、今私が着ている服よりは動きやすそうだ。


「そぉ? そう言ってくれると嬉しいけど。ま、とりあえず当初の目的であるお店に行きましょうや! さーさー、邪魔者もいなくなったし気を改めてレッツゴー!」


 そう言って一人先に足を踏み出す蓮美。それに私と燕も付いていく。

 そう、それが今回の主たる目的なのだ。屍霊の事はほんの少しだけ忘れよう。

 フフッ、何を食べようか……。楽しみだ。フヒヒ。

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