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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-28-3.危機的状況【陣野卓磨】

「くっそ……ブレーキが全部動かねぇ! フットもサイドも排気も全部駄目だっ! どうなってんだよチクショウ!」


 友惟がハンドルを握りながら焦りを露わにしている。

 その間にも何度も、ターボババアがバスに体当たりをかまし、車体が衝撃を受け何度も激しく揺れる。


〝走れ走れ、はよ走れ。走って走って崖下落ちて、ワシに魂喰わせろや〟


 また聞こえてきた声。フロントガラスに張り付いた巨大な顔の目がギョロギョロと車内を見回し、口からは長く伸びた舌がベロベロとフロントガラスを嘗め回している。

 この低く唸るような気持ちの悪い声の主はコイツか。


「くっそ、気持ち悪りぃな! なんなんだよコイツ! 前が見えねぇよ!」


「ね、ねぇ! また何か……!」


 蘇我が震える声でこちらに叫び声を上げた。慌てて立ち上がり外を見ると、ターボババアの向こう側にバットを片手に構えた首なしのライダーが出現していた。


 う、嘘だろ……。同時に三体も……。影姫もいないこの状況でどうすりゃいいんだ……。

 俺は、俺はここで死ぬのか? 友惟も霙月も、蘇我も柏木さんもここで死んでしまうのか?

 そう考えてしまうと頭が真っ白になりそうになる。


 だが、頭を抱えて悩みこんでいると、ある事に気が付いた。先程まで定期的にターボババアの体当たりで揺れていた車体が揺れなくなったのだ。


 何かあったのかと、咄嗟に車の外に目を向けると、意外な光景が目に入ってきた。


「ギイイエエエエエエエエエエエエエ! ピイイイイイイイイイ!」


 聞こえてきたのはターボババアの叫び声。だが、それはこちらに向けられたものではなかった。バットを振りかざし、走るターボババアを殴りつけている首無しライダーに向けられたものであった。


 仲間割れか……? それとも獲物の取り合いなのか……?

 状況が飲み込めない。一体何がどうなっているんだ。だが、今がチャンスだ。屍霊同士でやり合っている間に、何とか解決策を見つけ出さないと……。ここは状況を一番理解している俺が冷静にならないといけない。皆を、皆を無事生きて霧雨市に帰らせるんだ。


「あれ……あのバイク……あの服……覚えてる……見覚えがあるっ」


 そんな時、蘇我の呟くような声が耳に入ってきた。


「あの日、家を出て行った時の服だ……お兄ちゃん……もしかして、お兄ちゃんなの!?」


 外に向かって叫び声を上げる蘇我。それに釣られて柏木さんも外に目を向ける。だが、蘇我の声は届いていないのか、外の二体に反応はない。ただただ、首無しライダーはバットを振り回し、ターボババアはそを腕で受け止め体当たりで対抗している。


「私の声、聞こえてない……のかな……。もしかして、似てるだけ……? でも……」


 力なく席に戻る蘇我。もしかしたら頭がないので聞こえていないと言う可能性もある。蘇我の声が届けば今迄みたいに何とかなるかもしれない。

 でも、頭なんてどうすりゃいいんだよ……。七瀬刑事の話だと、蘇我のお兄さんが亡くなったのって十年以上前だぞ。

 それになんだろうか、いつまで走ってもトンネルを抜ける気配がない。時間の感覚もおかしくなっている気がする。まさか、すでに屍霊の固有空間に閉じ込められたんじゃないだろうな。


「でも、私達を助けてくれてるんだ……きっと……絶対そうよ……お兄ちゃんはいつだって私を助けてくれたもの……」


 蘇我はこの状況に錯乱しているのか、埴輪の人形を抱きしめながら、席で一人ブツブツと呟き始めた。


智佐子ちさ姉ちゃん、大丈夫、大丈夫だから……」


 それを宥める柏木さんの視線はチラチラとこちらを気にしている。俺が対処をしてくれると思っているのだろうが、駄目なのだ。俺だって月紅石を使って何とかしたいのは山々だ。だが、あれ以来、伊刈がでてくるどころか石も光らないのだ。

 腕にはめている数珠を見るも、石は依然と沈黙を保っている。


 倒れた運転手を見守る霙月の顔も、悲壮感が漂っている。友惟は頑張っていると言うのに、唯一対抗手段を持っているはずの俺が、肝心な時に何も出来ないなんて……。

 このまま自分を責めて考えていても埒が明かない。なんとか、影姫を、影姫……、何かないか、思い出せ。


 そうだ……。


『蓮美もいるし、場所は新しく出来たすいーつしょっぷと聞いたが貴駒峠に近い場所だ。何かあってもすぐに駆けつけれると判断したからこそ燕の誘いを受け入れたんだ』


 あの時話していた影姫の言葉を思い出した。確か貴駒峠近くのスイーツショップって言ってたぞ。峠道だから近くっつっても距離はあるだろうが、連絡さえ取れればなんとかこっちに来てもらえるんじゃないだろうか。しかも蓮美までいるんだったら……アイツの事だから車で黒服に送っていってもらってるはずだ。それなら、短時間でここまで来れるはず!


 慌ててスマホを取り出し画面を覗く。電波は立っている。もしかして繋がるんじゃないのか。

 焦る心を抑えつつスマホの画面を操作する。登録した影姫の番号を選び耳に当てると、呼び出し音が聞こえてきた。

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