4-28-1.博物館見学【陣野卓磨】
受付でプレゼントの受け渡しを終えて、しばらくして落ち着きを取り戻した蘇我達と共に博物館内を散策する。
一階は固定の白鞘人形の展示と、世界の人形がいろいろと展示してあった。中には真偽の程は定かではないが呪いの人形などと言う代物さえ展示されている。
その奥にももう一つ展示スペースはあったようなのだが、立ち入り禁止になっていた。立ち入り禁止のロープの横には『作・白鞘平八 生人形・死人形』の看板が立ててあった。
「ああ、そこは今何も無いよ。結構見応えのある人形だったんだが……困ったモンで、去年不法侵入があったみたいでね。掃除はしたけど、中はもう荒らされて滅茶苦茶だったさ。人形も別の場所で破壊されてるのが見つかってね。ま、客も満員御礼って訳でもないし、全部修理するにも金がかかるし……スペースも足りてるから部屋はそのままになってるんだがな」
偶然通りかかった長さんが、立ち入り禁止区域を覗き込む俺と霙月と柏木さんを見て説明をしてくれた。確かに中を覗くと、ある程度の掃除はしてあるものの、割られたガラスや木片が入れられた箱が幾つかおいてある。奥の壁も修理はしてあるものの、破壊された後なのか一部新しい物になっていた。
「壁壊してまで侵入して来たんですか……よっぽど欲しい物があったんですね」
「こんな博物館に欲しい物ねぇ。まぁ確かにあの二体の人形は相当な見応えがあっし、妙に魅かれる物があったとは思うけどよ、結構デカイ代物だったし、盗んだ所で売りさばくのも無理だと思うんだがなぁ。運ぶのもえれぇ手間だと思うし……ま、だから処分に困って壊したんかもしれんがな。もったいないもんさ」
「折角造った物を勝手に盗んで勝手に壊すなんて許せないですよねっ。そうやって芸術品が人の目に触れなくなると思うと悲しいです」
霙月もそれを聞いてご立腹のようだ。
「ああ、まぁ、過ぎちまった事はしょうがないさ。製作者の人形師ももう亡くなっちまってるし、平八さんクラスの技術力持っとる人形師がまだおらん上に、見つかった人形の残骸も燃えちまったモンでどうにもできんしな。ま、今は二階で最新の白鞘人形がズラリと展示されてるからゆっくり楽しんでみてってくれや」
「はい、ありがとうございます」
長さんは俺の返事を聞くと、軽く手を振り掃除道具片手に自分の仕事へと戻っていった。
「ねぇ、卓磨、澪ちゃん。友惟と智佐子ちゃんも二階に上がったみたいだし、私達も行ってみよ」
そうして俺達三人も二階で行われているイベント展示を見に行く事となった。
展示されていた人形は、日本人形的な物がメインではあったが、俺が想像していた物よりもバリエーションが豊かで、その他からくり人形や何とも表現し難い独特な形状の人形等、様々な人形が置かれていた。
ぶっちゃけ俺は人形等に興味は無かった為にこんな所に来ても楽しめないだろうと思っていたのだが、予想外な代物を見れた事でそこそこ楽しむ事が出来た。そして、蘇我はもちろんの事、他の三人も俺と同じ様であった。
そして、近くの食堂で食事を終えた後に、少し歩いた所にあった商業施設にて皆で遊び、今は火徒潟駅のバス停にいる。霙月が周辺を事前に調べておいてくれていたおかげで、スムーズに今日という一日を過ごす事が出来た。影姫だったらこうはいかなかっただろう。つくづく霙月に感謝するしかない。
スマホで時間を確認すると、もう十六時になっている。楽しい日というのは時間が過ぎるのが早いものだ。このまま何事もなく家に帰り、疲れた身体を癒したいものだ。
だがしかし、まだ重要な事がある。
「ところでよ、友惟」
「ん? 何?」
三人で談笑する女子達から少し離れ、友惟に声をかける。
朝のコイツからは想像が出来ないほどにこやかである。コレは何か成功を確信している顔であろう。
「お前、肝心な事忘れてないか? いつ告るんだ?」
そう、本来の目的はそれなのだ。コレを忘れてしまっては、出不精な俺がだるい身体を引きずりながらいちいち付いてきた意味が無い。
「いつって、二階堂によるとだな、何回か交流を深めて好感度を上げてから告るのがベストって言ってたぞ」
「何回かって……いつ頃するつもりだよ」
「今からだったらよ……夏休みもあるし、色々誘って、運動会とか学園祭とか数々のイベントをこなしてからだな……クリスマスとかがいいんじゃねぇか? そっから成功したら初詣とか二人で行ったりなんかしてよ」
すっかり二階堂のギャルゲー脳に洗脳されているようであった。
最近オンラインゲームにあまりログインできていなかったが、俺のいない間にこんな男にされていたとは。
だいたい、そんなイベントこなしてたら半年後になっちまうぞ。来年は受験もあるし、そんな長い目で見てたら……。まぁ、本人がそれでいいなら俺が口を出すこともあるまい。
何かおかしいと気が付いたら友惟から聞いてくるだろ……。




