表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
421/613

4-27-3.後部座席【七瀬厳八】

「どうでした? 変な感じでしょう。まるで幽霊にでも出くわしたような」


「先輩、これ……」


「うむ……」


 映像を見て、疑念が確信へと変わった。あの峠、あのトンネルは屍霊に取り憑かれていると。

 そして、屍霊となっているのは……十三年前の事故で死亡した蘇我啓太郎そがけいたろう柏木鶴ゑ(かしわぎつるえ)だ。屍霊達の姿こそ映ってはいなかったが、高橋の叫び声からしても間違いないだろう。

 蘇我がこの様になってしまったと信じたくないが、これを見てしまった以上、そう思わざるを得ない。


「ただ、相手が映ってないって点では、横山宅の監視カメラの時と酷似してますね。何かがぶつかる音が何度も聞こえますし、その度に車体が大きく揺れていますけど、相手が見えない」


 九条が笑みを浮かべつつ動画をリピート再生し画面を見ている。席を貸してくれている船井も、発言こそしないものの興味深そうに画面を覗き込んでいた。


「他にも不可解な点が幾つかあったな……トンネルが長すぎるのと、高橋は気がついてないようだが、高橋が左右を見ながら叫んでいる相手の他に、後部座席に誰かいた様な場面があったな……なんというか、顔色の悪い禿げたオッサンがうっすらと数秒映っていたような……」


「そんなの見えました? 乗客は乗せてないみたいでしたけど」


 九条が不思議そうな顔をしてこちらを見る。


「いや、見えたような気がしたんだが……光の加減か何かか?」


 俺にしか見えなかったのか? それとも目の錯覚だろうか。


「あとは入口出口っすね。真っ直ぐ走ってるように見えましたが、最後飛び出した場所が入った側でした。コレも不可解ですね」


 九条が最後の数分を早送りしながら何度も確認している。そう、確かに入ったのは急カーブのある火徒潟町側の入り口なのだが、トンネルから飛び出した所も火徒潟町側なのだ。普通なら霧雨市側の出口で急カーブなどなく、多少スピードが出ていたとしても斜面下に転げ落ちるなんて事はない。


「やはり―――陣野さんが絡むような案件なんでしょうか?」


 頭を掻きつつ困惑している俺に、柳川も心配そうな顔でリピートされる動画を見つめている。何も知らない船井に事があまり知られるのもどうかと思い、はっきりとは答えられない。


「いや、柳川。動画の件はありがとう。ただ、陣野が絡むかどうかははっきりとは言えん。後はこっちで調べるから柳川は通常の事故処理をしておいてくれ。あと、タクシー会社にこの動画をどっかに売ったり公開したりすんなって釘さしとけよ。仏さんの動画を出すほど腐っちゃおらんと思うが、金になると分かったら何するか分からんからな」


「ええ、わかりました。連絡しておきます。口頭だけになりますので抑えれるかは分からないですが……それと、また陣野さんに会う事があれば宜しく伝えておいてください。向こうは忘れてるみたいですが一応恩人ですので」


「ああ、わかった。伝えとくよ」


 それを聞くと柳川は九条からUSBメモリを受け取り、「失礼します」と軽く一礼すると捜査一課の部屋から退室していった。


「コピーとりましたけど溝ぐっちゃんに見てもらいます? 音声解析したらまた何か出て来るかも知れませんし」


「いや、鑑識に見てもらうまでも無いだろう」


 見てもらってもあの時と同じだ。鑑識では詳しい事は何も分からんだろう。これはそう言う事案なのだ。それに、あの時みたいにまた署に攻め入られでもいたらたまったものじゃない。赤いチャンチャンコの時は大丈夫だったが、署内に攻め入られて死人が出ようものなら、それこそ警察の面目丸潰れた。何とか外部で解決しなければならない。


「それとこの件は俺等にとっては管轄外の事だし、情報収集の為に勤務中に多くの時間を割いて動く訳にはいかん。俺は次の公休日にでも蘇我と柏木の家に聞き取りに行くから、九条は陣野の方に……」


「すいません、僕は次の休みはちょっと私用がありまして……駄目っすかね」


 俺の言葉を遮って発せられた九条の言葉は意外なものであった。あんなに次の屍霊に会うのを楽しみにしていた男が断る言うのだ。


「どうした。何かあったのか? お前がコレ関係の案件断るなんて珍しいな」


「いえいえ、休日はちょっと個人的に調べたい事もありますので……あくまで個人的な物ですんで。それとちょっと友人トノ約束モ」


「調べたい事?」


「私用ですよ私用。先輩に話す程の事でもないっすよ。それより、時間食っちゃいましたね。貴駒峠に急ぎましょう。今日はその為に急いで仕事終わらせたんですから。ははっ」


「あ、ああ」


 そう言えばそうであった。三十分位は時間を取ってしまっただろうか。

 早く行かねばまた暗くなってしまう。日をずらした意味がなくなってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ