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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-27-1.ドライブレコーダー【七瀬厳八】

「よし、急ぐぞ九条。早くしねぇとまた暗くなっちまう」


「もう六月なんですし、日が暮れるのも遅くなってきたからまだ大丈夫っすよ」


 俺と九条は準備を済ませて署を出る所であった。明るいうちにと言う事だから早いに越した事はないというのに、何を悠長なことを言っているんだコイツは。九条のこういう所には呆れてしまう。

 だが、いざ課の扉を開けてでようとした時、一人の警官とぶつかりそうになった。


「あ、七瀬警部補。まだいらっしゃいましたか」


 捜査一課に入ってきて俺に声をかけた低姿勢な人物、それは交通課の柳川幹夫やながわみきお係長であった。


「お、おう、またなんかあったのか」


 ぶつかりそうになったと言うのに、怯むことなく部屋に入り込んでこちらを眺めている柳川を出迎える。


「またもまたまた、またですよ。これでウチの署は府警管内で死亡事故数ワースト一位に転落ですな……。あの県境さえもう少し手前であればと思うと、ホント嫌になりますよ。貴駒峠たかこまとうげでの事故。それと、被害者の名前を聞いたら驚きますよ」


 やれやれと言った感じで疲れた顔を見せる柳川。

 よほどストレスが溜まって愚痴りたいのか、俺が返事をする間もなく早口で喋りだす。


「被害者の名前なんですけど、高橋貫太郎たかはしかんたろうって言うタクシー運転手なんですけどね。覚えてます? ほら、七瀬警部補の知り合いの……」


 確かに聞き覚えのある名前であった。それは十三年前に蘇我そがが貴駒峠で引き起こした事故の、事故相手の名前であった。

 確か柳川の言う通りタクシー運転手で、重傷を負いはしたものの彼だけは生存していたはずだ。あれだけの事故に巻き込まれてよくタクシー運転手を続けようなんて気になれたもんだな。

 当事でも確か六十歳は越えてた気がするが……七十超えても働かないといけないなんて世知辛い世の中になったもんだ。


「ああ、覚えてる。確か十三年前にあの峠で事故に遭った奴だな」


「そう、今回の被害者はその人なんですよ。ただ、今回は残念な事に、また車ごと斜面下へ転落して……」


 伏目がちに暗い顔をする柳川の様相から大体の結末は理解できた。

 十中八九亡くなっただろう。むしろ十三年前のあの事故の状態で生きていた方が奇跡なくらいだ。今回はその奇跡も起こってくれなかったと言う事なのだろう。


「前も確か同じ様な状況だったな。さすがにあのレベルの事故で何度も生還する方が奇跡だ。残念だが二度目は無いさ」


「そうですよね……でですね、タクシーですしドライブレコーダー(ドラレコ)も付いてるだろうと思って一応タクシー会社に確認したんですけど……」


「また映像が真っ暗だったのか?」


「いえ、それがですね。今回は映っていたんですよ。その映像残ってます。これがその時の映像です」


 柳川は顔をこちらに近づけて辺りを見回すように小声で言いながら、手に持っていたUSBメモリを俺にそっと手渡してきた。


「何だ、やけに仕事が早いな。てか、何もそんなにコソコソすること無いだろ……」


 あまりに近寄ってきた為に、僅かに臭ってくる中年特有の臭いが漂ってきた。

 思わず手で遮りつつのけぞってしまう。


「もしやと思って急いだんですよ。それに、内容的に他の方には……一応、表向きには捜査一課の方には関係ない事だと思いまして……これはまぁ、一応は交通課の管轄の事故ですからね。でもまぁ、中身を見てもらえれば分かると思うんですが……なんというか……とにかく一度見てもらった方が早いですね」


 なんとも歯切れの悪い言葉を繰り返しつつ、よほど早く俺に見せたいのかUSBメモリを強引に差し出してくる。


「そうかなのか?」


 何やらおどおどとした態度で不穏な空気を感じさせる柳川からUSBメモリを受け取り、柳川と共にパソコンで作業をしている人物のデスクへと近寄る。


「すまん船井、急ぎでちょっと見たいんだが、ノート貸してくれるか。俺等のもう落としちまったんで」


「え? ああ、いいですよ」


 そう言い席を立つ船井に変わり、USBを九条に手渡すと、九条が席に着く。

 柳川の雰囲気ふんいきから大方の察しはつく。恐らく前に見た食事処や横山宅の監視カメラと同じ様な映像が撮れているのではないだろうか。そんな気がしてならなかった。


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