4-25-2.謎のチケット【陣野卓磨】
「あ、ホントだ……なんでだろう、今言われるまで全然気がつかなかった」
「俺も卓磨に言われるまで気付かなかったわ……」
蘇我と友惟が不思議そうにチケットに捺されている印鑑を眺めている。
よく見ると、印鑑の上の文字は『白』と書いてあるように見える。だが、下の文字は画数が多いせいか俺には何の文字かが判別できなかった。
「これは『白』って言う字と『鞘』って言う字だね。色の白と、刀を入れたりする鞘。『しろさや』?『しらさや』? 読み方はわかんないけど、印鑑だから誰かの苗字だろうし、やっぱり差出人の人じゃないかな」
そんな俺を差し置いて霙月がサラッと文字を解読する。
霙月が解読した文字を聞いて、どこか納得した。
「ああ、じゃあ白鞘って読むんじゃないのか? ほら、あのポスター。白鞘人形展って書いてあるし」
そう言う俺の言葉に皆がポスターの方を振り向く。
視線の先では、一気に皆の注目を浴びた柏木さんがキョトンとした顔でこちらを見ていた。
「そうね……でもなんで私に届いたのかしら」
「まぁ、この人形展の主催者の関係者が、宣伝の為にチケットを手当たり次第ランダムに放り込んでたんじゃないの。こんな辺鄙な場所じゃ集客も難しいだろうしさ。あんま気にする事なさそうだな。差出人が分かりゃ、ストーカーとか考える心配も無いしよ」
しかし、そう言う友惟の意見を真に受けるとしても疑問点が一つ残る。さっき蘇我は「私宛に」と言っていた。手当たり次第ランダムならば個人名など書かないだろう。
となると、この白鞘って人が蘇我智佐子という人物の事をを知っていて、故意的に蘇我に届けたと言う事になる。しかし、蘇我の態度を見ると心当たりもなさそうだ。
あまり突っ込むと面倒臭いので俺から追求する事はしないが、今の所この街についてから、近くを怪しい人物がうろついているのを見かけたとかそういうのはないので、心配する事も無いだろう。
「まぁ、いいじゃない。こんな所で皆でチケット眺めて、ずっと皆でしかめっ面してても時間がもったいないだけだし、早く入りましょ。澪ちゃんも暇そうだし」
そう促す蘇我の言葉に柏木さんを見ると、確かに暇そうにうろついていた。
お笑い好きがこんな堅そうな博物館に連れて来られりゃ、そら暇にもなるわな。
「そうだな。何か、このポスター見ると結構変わった人形置いてそうだし、俺もそれなりに期待が沸いてきたわ。じゃ、行こうぜ」
そう言うと友惟は入り口へ向かって歩き始めた。それに続く蘇我と柏木さん。霙月の方を見ると、こちらに一つ頷いて友惟達の後へと続いた。
一人残される俺。なぜか足が進まない。先に行く四人の背を見て、頭がボーっとしてくる。
「君なら見つけると思ったわ。静馬さんのご子息だもの……あなたはこれから……」
突然背後から聞こえてきた女性の声。だが、言葉の最後は一陣の風に揺れる木々のざわめきにかき消され、何と言ったかが聞こえなかった。
「!?」
驚き慌てて振り返ったが、誰もいなかった。
ボーっとしていて幻聴でも聞こえてしまったのだろうか……。




