4-25-1.到着、火徒潟町【陣野卓磨】
俺の心配は取り越し苦労だったようで、火徒潟町に到着する迄、何事も起こらず無事に峠を越える事が出来た。
ただ、途中で奇妙な光景を目撃した。例のトンネルを出た所だ。駅で見た白髪の女性が、地蔵のあった道路沿いの小さな空き地で、小さな日本人形を掲げて何やらおまじないのような事をしていたのだ。通り過ぎる間の短時間であった為に、それが何をしていた所なのかまでは全然分からなかったが、俺達を柏木家まで運んでくれたタクシーの運転手が、車に肘をかけて暇そうにペットボトルのお茶を飲み、その光景を眺めている姿も見えた。
霙月と柏木さんは話をしていたようで窓際の俺しか気がつかなかったようだが、友惟と蘇我は気がついたようで何をしているんだろうと話をしていた。
「よぉーし、着いたぞぉ!!」
目の前にあるバス停の看板には『火徒潟人形博物館前』の文字。俺達は火徒潟駅で博物館行きのバスに乗り換え、ここまでバスで揺られてきた。横を見ると思っていたよりも大きな施設が聳え立っている。
友惟はというと、バス内で蘇我さんとの会話がよほど盛り上がったのか、すっかり元気を取り戻して顔色も良くなっている。こういうところは単純なのだ。
「入館料、中学生・高校生一人五百円だって」
霙月が博物館の前に設置されていた看板を見て入館料の確認をしている。
五百円か。博物館の学生料金にしては若干他界気もするが、こんな辺鄙な場所にある博物館だ。少しは取らないとやっていけないのであろう。
「あ、霙月ちゃん。入館用のチケットはあるから、入館料を払う必要は無いよ」
そう言うと蘇我は鞄から一枚のチケットを取り出した。
「このチケット、私宛に送られてきたんだけど……何でも、付添いなら何人でも入れるって書いてあって。実はこのチケット、期限も今日までだったの」
「へぇ。知り合いか誰かが送ってきたの? それとも、懸賞かなにか?」
霙月は、蘇我が手に持ちヒラヒラと揺らすそのチケットを目で追いつつ不思議そうに見つめている。
「あー、うん。実は分かんないのよね。ウチの郵便桶に差出人も書いてなくて切手も貼ってない状態で投函されてたらしくて……」
「それって何か危なくね? ストーカーとかだったらどうすんの」
友惟が蘇我の言葉を聞いて不安な表情を浮かべる。確かにそんな所在不明なチケットを使うのは普通だったら控えるだろう。
「でも、私宛だったし、ウチの両親も折角から行って見たらって言ってたし、私も何かこのチケットを手にした時、なぜかこれは安全だって気がしたの。根拠は無いんだけどね」
「ちょっと見せてもらっていい?」
「うん」
友惟は怪訝な顔をしつつ蘇我からチケットを受け取り、表裏をひっくり返しながら怪しい所が無いか眺めている。俺も横から覗いていたが、もちろん怪しい所などなく、何の変哲もなさそうなチケットだった。
ただ、チケットの裏には一つ赤い印が押されていた。ただ、書体が難しく、俺では何と読むかが分からなかった。
「これ、差出人の印鑑じゃないのか? なんて書いてあるんだ?」
俺が聞くと、友惟も「さぁ?」と首をかしげている。
「え? そんな印鑑押してあった?」
俺の言葉に反応して蘇我がこちらに近寄ってきた。それに霙月も続いて覗き込んでくる。柏木さんはというと、暇そうに博物館の前に張られていたポスターを眺めている。そこには『白鞘人形展開催中』とでかでかと書かれているのが目に入った。




