4-23-1.不思議な夢【陣野卓磨】
バスに揺られて道を走る。俺・霙月・柏木さんの三人は、バスの最後尾に設置されている広い座席に座っている。友惟と蘇我は二つ前の席で談笑している。他に乗客はいない。
「え? 蘇我さんあの漫画読んだことあるの?」
「うん、お父さんの部屋に置いてあったから。読み始めたら全巻読んじゃった」
「以外だなぁ。風紀委員とかやってるからああいうジャンルの駄目だと思ってたわ」
「現実と漫画は違うから。話が結構作り込まれてて面白かったよ。ギャグパートも要所要所にちりばめられてたし」
「そうそう、あの作品にはこんな裏話があってさ……」
「へぇ、知らなかった。それを知ると深みを感じるね。じゃあさ……」
バスが空いていて多に客がいないせいか、二人の会話が此方まで聞こえてくる。
どうやら、蘇我は家に置いてあった少年漫画をそこそこ読んでいたようで、そこから話題が広がっているようだ。蘇我はお父さんといっているが、俺にはわかる。聞こえてきた作品名からして、今はもう完結している十数年前のヤンキーの漫画だ。恐らく兄の啓太郎さんの物だろう。
そんな二人を見て、少しの安心感を覚えつつ横を見ると、これまた霙月と柏木さんも楽しそうに談笑している。
俺は一人になっちまったが、皆が幸せならいいさ……フッ……。
しばらくそんな状況が続き、窓の外をボーっと眺める。
流れる景色が灰色の街並みから、緑の木々が増えていく。
ああ、こんな朝から出かけるのもたまにはいいもんだな、などと柄にもなく思ってしまう。
隣の二人も話題が尽きたのか、少し大人しくなっている。
「そういえばお兄さん、燕に預けた巾着袋受け取ってくれました?」
そんな中、ボーっとしていて睡魔に襲われ瞼が半分閉じかけていた俺に、不意に話を振られた。
声を掛けて来たのは柏木さんである。霙月を挟んで向こう側にいる柏木さんは、俺が貰った巾着と同じ様なデザインの物を見せてきた。
「あ、ああ、それね。綺麗なモンだったから部屋に吊るして飾ってあるよ」
俺がそう答えると、柏木さんは俺から視線を逸らし前を見ると、どこか曇った顔で話し始めた。
「そうですか。まぁ、男の人が使うにはちょっとデザインがアレですよね。たはっ」
少し笑顔を見せる物の、その表情は浮かない物である。
「いやいや、俺の部屋殺風景だからさ、飾ってるだけでも部屋が明るくなるから嬉しいよ。ホントありがとう」
「そう言ってもらえると私も嬉しいです。でですね、それに関してちょっと不思議な事がありまして。私ね、その巾着袋を燕にあげた日に不思議な夢を見たんですよ」
柏木さんが自身の手に持っている巾着袋を見つめつつ語りだした。
「へぇ、何々? どんな夢見たの?」
霙月も、不思議な夢と聞いて興味津々である。
「それは……」
澪はそう言うと、見たという夢の内容を淡々と話し始めた。




