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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-22-4.白髪の女性【陣野卓磨】

 駅に到着し、バス停で五人並んで待つ。

 日曜の朝だからか、行き先のせいなのかは分からないが、今いるバスのロータリーで俺達と同じ停留所に並んでいる客はいなかった。だが、他の行き先の停留所にはちらほらと人がいる。


 友惟も何とか徐々に元気を取り戻し、霙月達の会話に何とか入っているようだ。談笑する四人を背に俺はロータリー内をボーっと見回している。


 そんな中、ロータリー内に設置されたタクシー乗り場に一際目立つ存在が目に入った。

 ストールをまいた女性。薄い水色のブラウスにロングスカート、そして麦藁帽子をかぶった白髪はくはつで長い髪の若い女性が立っている。タクシー乗り場に他に客はおらず、女性は一人のようだ。


 白髪と言えば影姫を思い出す。影姫はもう見慣れているので最近はその白髪について何か思うことも無くなっていたが、街中で影姫以外の綺麗な白髪の若い女性を見ると、目が行ってしまう。


 俺が少しそちらの方を何の気なしに眺めていると、その女性は俺の視線に気がついたのか、顔をこちらに傾けた。そして、ニコリと笑顔を浮かべたかと思うと、軽く手を振ってきた。

 距離があったので気付かれないだろうと思っていた俺は、気付かれてしまった事に驚きを感じて、慌てて視線を外してしまった。


 なぜか胸がドキドキしている。しかし、これは恋などではない。顔に熱を帯びるどころか、血の気が引いている気がする。見つかってはいけない何かに見つかってしまった、そんな気分だ。


卓磨たっくん、一人で何してるの? 卓磨たっくんも会話に入ったら? って、何か顔色悪くない? 大丈夫?」


 一人でボーっとしていた俺を見かねてか霙月がこちらへ寄ってきてくれたのだが、俺の顔を心配そうに覗き込む。


「え、あ、ああ。悪い。朝は弱いんだ。すぐに戻るさ」


 そんな事を言いつつ、再び先程の女性の方をチラリと確認する。乗り場には既にタクシーが来ており、女性はそのタクシーに乗り込んだ所であった。

 俺は先程襲ってきた不安な気持ちを抑えつつ、そんなタクシーを何となく見送り四人の下へ戻ると、丁度火徒潟町行きのバスがやってきた。

 ブザーと同時にバスの扉が開く。出発の時刻まではまだ五分ほどあるようだ。


「ねぇ、蘇我さん。私も澪ちゃんともうちょっと色々と話してみたいし、ちょっとお借りしてもいいかな?」


 霙月はどうやら子の短時間に澪と仲良くなった様だ。

 そう霙月が切り出すと蘇我はにこやかに「うん、澪ちゃんがよければいいよ」と返事をする。


「じゃあ、友惟を貸し出してあげるから適当に遊んであげててー。というわけで、二人はチョーッと先に乗っててくれるかなー?」


「お、おい」


「あっ」


 そう言って困惑する二人の背を押して、半ば無理矢理先にバスへと乗り込ませた。

 柏木さんもその様子を見て口をあけて呆然としている。そうか、蘇我を引き離せないなら、こちらで柏木さんを引き取ればいいのではないか。さすが霙月だ。機転が利く。


 外からは二人が席に着く姿が見え、ちゃんと二人掛けの席に隣同士に座っているのが確認できた。

 それを霙月も確認したのか、ニコニコと柏木さんに事の事情を話し始めた。


「ああ! なるほどー! だから友惟さんなんかよそよそしかったんだ!? 霙月さんもやたらと私と智佐子ちさ姉ちゃんを引き離そうとするし、若干なんか変な雰囲気ふんいきがあったから、妙だなーとは思ってたんですよ。なーんか私、お邪魔しちゃったみたいで悪い気がしてきたなぁ。で、それでお二人もついて来たって訳ですかい」


「そーそー、そういう事なの。だからさ、澪ちゃん。澪ちゃんも協力してくれたら嬉しいかなぁ、なんて」


 霙月が手を合わせてお願いをしている。

 ここは俺もお願いをするべきなのだろうか。お願いするべきなのだろう。何せ親友の事なのだから。


「そりゃあもちろん、智佐子ちさ姉ちゃんに彼氏が出来るかもしれないって一大事にボーっとしてません事ですよ! それなりにイケメンだし、私も大歓迎な訳でっ!」


「おい、柏木さん、あんまり大声で言うと向こうに聞こえちゃうから……」


「あは、すいません」


 俺が小声で注意を促すと、申し訳なさそうに謝る柏木さん。霙月もそれを見て苦笑している。元気なのはいいが、大丈夫なのだろうか。変な所でバレないか、また別の不安が出来てしまった気がする。


「ちなみに智佐子ちさ姉ちゃん、私的見解から申し上げると、アニメとかゲームとかあんまり興味ないみたいですけど、それは大丈夫なんですかね? どっちかと言うと芸術方面に趣味が多いようで」


 俺の方をチラリと見ながら柏木さんが小声で霙月に問いかける。燕から俺の話を聞いているであろう柏木さんは、俺の友達である友惟の事を心配しているようだ。

 芸術趣味か……。日曜に一人で人形博物館に行こうとしてたくらいなんだから、そういう事だよな。


「あはは……あー、あー……まぁ、今後話していく上で興味持つかもしれないしぃ、今後……ねぇ?」


 笑顔の中にも困り顔の霙月。勿論霙月は友惟がどういう趣味を持っているのかは知っている。


「お、俺に振るなよ……心配ならそう言う話題出すなって言っときゃいいだろ」


 俺にはそれが一番の不安の種になってしまった。

 友惟よ、ボロを出すなよ……。

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