4-22-2.もう一人【陣野卓磨】
「智佐子ちゃん先に乗って。後部座席真ん中は踏ん張らないといけないし、友惟に座らせるから。あ、たっくんは助手席ねー。後ろに男が二人だとギュウギュウになっちゃうからっ。私は最後に乗るね」
到着した黒塗りの高級そうなタクシーの横で、皆の座る場所を指定しテキパキと誘導していく霙月。
なかなかの采配だ。俺や影姫なら思いつかなかっただろう。こういう理由をつけておけば、自然に友惟と蘇我を隣り合わせにできる。
「う、うん。分かった」
「おう」
霙月の誘導に従う二人。俺もそれに従いタクシーの助手席に乗り込む。乗り込むと目に入ったのは運転手の顔だった。顔には大きな傷跡があり、見た感じ高齢で強面の運転手だ。年は俺の爺さんと同じくらいか少し上だろうか。
助手席の前に置かれている乗務員証を見ると、顔写真の隣に『高橋貫太郎』と書かれていた。
皆が乗り込み終えると、「ドア閉めますので挟まれないようにご注意下さい」との確認の声と共に車のドアが閉められる。
「シートベルトお閉めくださいね。で、どちらまで参りましょう?」
「あ、霧雨市駅のバス……」
友惟がシートベルトをガチャガチャと鳴らしながらそこまで言いかけた時、蘇我が慌ててその声を遮る。
「あ、ごめん、ちょっと寄って欲しい所があるの。運転手さん、近くに行ったら行き先の指示を出しますので、とりあえず霧雨市駅方面に向かってもらえますか?」
「はい、了解しました。霧雨市駅方面ですね。コースはどのように致しましょう」
「あ、それはお任せします」
蘇我のその返事を聞くと、運転手は了解の声と共に料金メーターを入れ、車を発進させる。
「ねぇ蘇我さん、何処に寄んの?」
友惟が蘇我に質問を投げかける。それは俺も気になった。向かう先は隣県の火徒潟人形博物館であり、そこへ向かう為に霧雨市駅で節約の為にタクシーからバスに乗り換えるのだ。
電車ではなくバスに乗る理由は、電車だと乗換えが多く、かなり遠回りになる為らしい。
「え、うん。実はね、もう一人行きたいって子がいて……私のいとこなんだけど……。霧雨市駅近くに住んでるから駅で集合でも良かったんだけど、時間も読めないし、タクシーでそこまで行ってもらって、そこから徒歩で、みんなで駅に行けばいいかなと思って」
「え、いとこ……って男? 女?」
「女の子だけど」
その蘇我の返事を聞いてチラッと後部座席を見ると、友惟がまたがっくりとした顔で項垂れている。恐らく男女は関係ないのだろうが、霙月が来た時点で友惟の目論みは崩れかけていたのに、ここから人数が増えるとなると更に崩れていく事は容易に予想できる。
しかもソレが蘇我の従姉妹となると、友惟が蘇我に話しかけるのが難しくなるのではないだろうか。
やはり、二階堂の要らぬ入れ知恵など聞くべきではなかったな。友惟。現実に決められたシナリオなど無い。何が起こるのか分からないのだ。
それからの後部座席では、口数の減った友惟をサポートするように霙月が何とか場を繋いでいたが、見ていて心苦しかった。
こちらはこちらで、運転手は丁寧ではあるが無口で会話が無い。俺としては余計な気を使う事も無いので無口の方がありがたいのだが、この状況では、影姫を連れて来ていたらもっと悲惨な状況になっていただろう。
霙月で良かった。助手席に座って本当に良かった。




