4-22-1.輪【陣野卓磨】
「もう一人来る人って、霙月ちゃんだったんだ。そう言えば、去年同じクラスだったけど一緒に遊びに行ったりした事無かったね」
「うんうん」
今、俺達は蘇我のマンションの前に到着して雑談をしている。
友惟はというと、少し離れた場所でスマホを弄っている。スマホアプリでタクシーを呼んでいるのだ。蘇我さんとの事もあるし俺が呼ぼうかと声をかけたのだが、暗い声で「俺がやる」と呟き一人輪から外れてしまった。霙月が来たのがよほど精神に効いているらしい。
「もしかして、霙月ちゃん陣野君と付き合ってるの? 友惟君が、予定立ててる時に陣野君が連れてくる人は彼女だとか何とか言ってたんだけど……」
「えっ? ど、どうなのかなぁ~? ねぇ、卓磨」
唐突な質問に霙月の口から返事が出てこず、こちらへと振られてくる。そこはきっぱりと違うといってやればいいじゃないか。
「い、いや、蘇我さんソレは……友惟の冗談だよ冗談。ただの幼馴染だって」
「そ、そうそう。幼馴染なの。家が近いし、昔から一緒にいる事も多かったから、友君は何か勘違いしたのかなぁ~? あはは~」
慌てて取り繕う俺達に対する蘇我の視線は不信感満載だ。
「そ、それよりね智佐子ちゃん、私は卓磨と出かけるのも久しぶりだし、募る話も色々とあるから、智佐子ちゃんは友惟の相手してあげてくれる? そもそも智佐子ちゃんを先に誘おうとしたのは友惟だって聞いたし……」
「え? うん、それはいいけど……友惟君大丈夫なの? 何か顔色悪いけど……体調悪いんじゃないの? もしそうだったら今日は中止にして日程を変えても……」
そう言って蘇我が向ける視線の先には、タクシーの注文を追えてこちらへトボトボト歩いてくる友惟の姿が。
確かに若干顔色が悪いような気もするが、一時的なものだろう。みんなで楽しく遊んでればすぐ治る、うん。
「あー、大丈夫大丈夫。アレは体調とかそう言うんじゃないから」
「そうそう、すぐ治るから智佐子ちゃんは心配しなくていいよっ」
「そ、そうなの? 二人が言うなら一応信じるけど……」
蘇我がそう言うと俺達の輪に合流した友惟は一つ溜息をつきながら口を開いた。
「タクシー、五分くらいで来るってよ」
そんな元気のない友惟を見て、霙月が友惟の背中を軽く叩く。
それに驚きビクッと身を震わせる友惟。
「ほらほら、いつまでもしょげてないで元気だしなさいよっ。今日何の為に智佐子ちゃん誘ったのかわかんなくなるでしょ。ほらっ! シャキッとしなさいシャキッと!」
「わ、分かってるよ! そもそも霙月がだな……!」
そんな二人のやり取りをジッと見つめる蘇我の目には、どこか寂しげなものがあった。
「兄弟っていいよね……。喜びを分かち合ったり、時には喧嘩したり……私、今一人っ子だから……」
「え、ああ……まぁ、元気そうでいいよな」
なぜ蘇我の視線がこうも寂しげなのかは大体の予想はつく。
兄である蘇我啓太郎という人が、蘇我の幼い頃に既に亡くなっているという事を、俺は知っているからだ。そんな蘇我に俺はなんと言っていいのか分からなかった。




