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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-21-4.日曜日の朝④【陣野卓磨】

「どーいうこったっYO!! 説明てくんなきゃ俺ここから一歩も足踏み出せねぇわ! ああ、踏み出せないね! なんで姉貴がここにいるんだよ!!」


 霙月が来た数分後に到着し、憤慨する友惟の指差す先では、笑顔の霙月が頭をかしげている。


 友惟、本っ当に…………(心の中で溜める)…………申し訳ないと思う。


 俺の桐生への説明不足が招いた結果だ。駄目な人物リストを伝えていなかった俺が悪い。

 桐生は善意で霙月に頼んでくれたんだろうし、俺が悪いのは分かっている。我慢してくれ。霙月はもう全て知ってしまっているんだ。ラスボス『全てを知る霙月』になってしまったのだ。今更取り繕う事なんてできない。何を言っても、もう後の祭りなんだ……。


「トイウコトデ、ミツキチャンガ、キョウノ オレノ アイカタダ。ミツキナラ、ウマクヤッテクレルサ。サ、イコウゼ」


「行こう行こう~♪ 私も蘇我さんとは去年同じクラスだったし、そこそこ仲いいつもりだから、力になれると思うよ~ドロ船に乗ったつもりでゴ~ゴ~」


 そうして棒読みで語り掛けながら足を踏み出す俺と、何を気にすることも無くのほほんとドロ船とかほざきながら歩き出す霙月の肩を、背後から無言でガシッと掴み引き止める友惟。

 かなり怒っているのか、掴む手に力が入り肩が痛い。


「おい、卓磨。勝手に自己解決して誤魔化すんじゃぁない。説明を。説明を……モ・ト・ム」


 後ろでメラメラと燃える炎が俺の心に飛び火してきそうであった。


 ………………。

 …………。

 ……。


 観念して一頻り説明を終えると、友惟の怒りはもはや何処に、諦めで肩はがっくりと落ちていた。


「じゃあなんだ。桐生さんは、蘇我さん相手に最良最善の人材を選んでくれてこの人が来たって訳……」


「ちょっと、これから弟の恋路を手伝ってあげようって姉に対して、この人って言い草はないでしょー」


 力なく指をさす友惟に対して霙月が膨れている。


「ああ、すまん……俺もついさっき霙月の姿を見て知ったんだ……。今から他に探す事も出来ないし、今日は霙月に付いて来てもらうしかない。でもあれだ、気心知れてるから相談しやすいだろ? 俺一人がついていくより何十倍もマシだと思うし、そう思えばこれ以上の人材は他におらんぞ」


「そうだよ。もっとポジティブに考えてよ。私は絶対誰にも言わないしっ」


 そんな霙月の笑顔を見てから友惟を見ると心苦しくなってくる。

 人差し指をピンと立てて自信満々に言う霙月に対して、友惟が冷ややかな視線を送る。


「霙月……お前、母さんに言っただろ……」


 その言葉を聞いてビクッと身を震わせる霙月。

 人差し指を立てた手をそのまま頬に当てると目線が泳いでいる。お前、親に言ったのか。そりゃアカンやろ……。


「い、いや、お母さんだけなら学校関係ないし、いいかなぁって……ほ、ほら、ちゃんと口止めはしておいたから大丈夫だよ! 絶対誰にも言わないでって!」


「霙月も桐生さんからそう言われてたんじゃないの……?」


 友惟のジト目が霙月に突き刺さる。


「い、いや、まぁいいじゃん! 物事は結果が全てだよっ! 今日のデートが成功すれば何も問題ないじゃないっ。さ、こんな所で時間潰してて遅刻でもしたら第一印象最悪だし、そろそろ行こうー!」


 人の家をこんな所とか言うな……。

 霙月は一人、元気よく蘇我のマンションへと足を向けて歩き出した。


「友惟、行くぞ。お前が来なけりゃ俺等が行く意味は微塵も無いんだからな」


 そう言って霙月について歩き出した俺の後を、友惟はトボトボと肩を揺らしながら付いて来る。その姿はまるで膝に矢を受けた負傷兵である。


「  」


 魂の抜けたような顔で言葉もなくついてくる友惟に、もはや俺がかける言葉は何もなかった。

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