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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-21-3.日曜日の朝③【陣野卓磨】

 やばい、寝坊をしてしまった。日曜の朝から出かけるなど本当に久しぶりなので、体が起きる事を拒否をしているようだ。夜更かしをしていた訳でもないのに眠い。猛烈に眠い。

 だが、そんな眠気に負けている場合ではない。幼馴染の一世一代の大イベントなのだ。ギャルゲーなら初回のデートが大事で、そこで迫られる選択肢が命運を分けると二階堂が言っていた。

 今からだと朝食など食べている暇も無い。急いで顔を洗い歯を磨き部屋へと戻る。


「どうした、そんなに慌てて」


 俺が慌てて着替えていると、影姫が呑気に声をかけてきた。


「どうしたって、影姫も知ってるだろ。今日は友惟のデートの付添いしなきゃなんねぇんだよっ。あー、もうそろそろ友惟迎えに来る時間だ」


 慌てて服を着替えて財布とスマホと腕時計を手に取る。あと、数珠も忘れちゃいけない。

 だが、腕時計を手にはめる時に気がついた。針が止まっているのだ。久しぶりにつけようと思って、昨夜に机の中から引っ張り出したのだ。その時は確かに動いていたのに、タイミング悪く寝ている間に電池が切れてしまったらしい。


「あっ、くそ……ホントタイミング悪いな。……まぁいいか」


「ちょっと待て」


 腕時計を机の上に戻し部屋を出て行こうとする俺を、影姫が引き止める。


「なんだよ、急いでんだよ」


 そんな俺に、影姫は着物の裾から腕時計を取り出すと俺に差し出してきた。


「一応卓磨もデートと言う名目なのだろう? それなら身だしなみ位きちんとしていけ。時間にルーズな男は嫌われるからな。私の腕時計を貸してやろう」


「影姫腕時計なんて持ってたのかよ」


 差し出された腕時計は見た事のあるものであった。女性用だ。金色に輝く本体フレームに革のバンドがついている。

 これは……。


「おいこれ、柴島くにじま先生の奴じゃねぇか。いくらなんでも女性用の腕時計するくらいなら、してない方がマシだろ」


「いーや、してる方がマシだ。卓磨は腕も細いからこれくらいつけられるだろ。遠慮はいらん。持って行け」


「影姫はいいのか? お前だって今日出かけるんだろ。頭の中が旧世代なお前がスマホで時間を確認する姿なんて想像出来んし、腕時計は持っておいた方が……」


「たわけが! 私の事を何と思っとるんだ!」


 なんともかんとも……。澄ました顔して日常生活での失敗は数知れず……。


「私は女同士の付き合いだ。腕時計など付けてても付けて無くとも何とも思われんだろ。グダグダいってないでさっさと受け取れ」


「いや、やっぱ……」


 そう言っていると、階下からインターフォンの鳴る音が聞こえてきた。

 友惟が迎えに来たのだ。爺さんも何も言っていなかったし、こんな朝早くに他に来客など無いだろう。


「ほら、さっさと……」


「わーかったわかった!」


 ここで言い合ってたら無駄に時間が過ぎていくだけだ。

 俺がいくら断っても、頑固な影姫は引かないだろうと思い、影姫の手にあった腕時計を掴み取るとポケットに突っ込んだ。


「おい、ちゃんと腕につけろよ。目に見えないと意味が無いからな!」


「分かってるよ! 後で付けるって!」


「屍霊が出没しているんだ、電話は出れるようにしておけよ! あと、そっちで何かあったら私のスマホに電話を……!」


「はいはい!」


 世話焼きと言うか何と言うか、まるで母親だ。

 影姫の言葉もよそに、そう言い部屋を出て階段を駆け下りる。影姫は影姫なりに気をかけてくれているようだが、急いでいる時にはいらぬお世話だ。

 階段を降りると、丁度燕が玄関へと向かっている所であった。インターフォンが鳴ったのでそれに対応するためだろう。


「あ、お兄ちゃん。朝ごはんどうするの?」


「もう迎えが来てんだ。食ってる暇なんてねーよ」


「あ、でも今来てるの友惟さんじゃ……」


「そうそう、友惟が来てんのっ」


 そういい燕を背に玄関へと向かう。

 玄関のすりガラスにはゆらゆらと揺れる人影が見える。だが、その姿は俺が思っている人物とは違うように見える。友惟だとしても身長が低すぎる。身長が明らかに違うのだ。それに、何かスカートを履いているように見える。友惟じゃないのだろうか。

 じゃあ誰だ。俺を尋ねて来る来客は他にいないだろうし、爺さんの来客か誰かだろうか。


 玄関の鍵を開け、恐る恐る扉を横に引く。


「やっほー、卓磨たっくん千登勢ちーちゃんに頼まれて来ーたよっ。水臭いなぁ直接頼んでくれれば手伝ったのにー」


 元気で明るく、しかしどこか照れくさそうな見慣れた女子の姿が一瞬見えた。

 が、バタンッ、と大きな音を立てて扉が閉まった。

 自然に閉まったのではない。見えた笑顔が俺の心にストレートパンチをぶち込んできて、その反動で俺が反射的に引き戸を閉めたのだ。なんでだ、何でここにいるんだ。俺の不安が的中してしまった。桐生……そこは空気を読んでくれよ……。


「ちょ、ちょっとー! 開けてよー! 何で閉めるの!?」


 そこに立っていたのは、烏丸は烏丸でも、友惟ではなく霙月であった。

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