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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-21-2.日曜日の朝②【烏丸友惟】

 朝食が終わり歯も磨いた。

 そして今、玄関で靴を履いている。


「……」


 靴紐を結びつつ隣を見ると、霙月も鼻歌を織り交ぜながら、外出用のお気に入りのブーツを履いている。ちょっとコンビにまで行く、と言う時に履いて行く靴ではない。なぜ一緒に出て行こうとする。

 いや、偶然だ偶然。そりゃあいっしょに朝食を食べて歯も磨いて同じ様に準備を終えたのだから出発も同じになってしまうだろう。出て行った後でばれなければ問題がないのだ。


「なぁ、霙月」


「ん? 何?」


「俺が先に家を出るからさ、その十分後に家を出てくれないか?」


 向かう方向が同じで行き先がばれたら嫌だ。出来るだけ距離を引き離しておきたい。今日ほどコイツの顔を見たくない日は無い程だ。


「何で?」


 キョトンとした顔でこちらを見る霙月を見ると、何か知っているのか知らないのか余計に分からなくなってくる。普段からとぼけた所があるせいで余計にそう感じる。

 聞くべきか、聞かざるべきか。いや、もし余計なことを言っていらぬ詮索でもされたらそれこそ面倒臭い。ここは聞かないと言うのが正解であろう。だが気になる。

 どっちなんだ…どっちなんだい!


「いや、特に理由はないんだけど……日曜の朝っぱらから姉弟揃って外歩いてると、誰かに見られたら恥ずかしいだろ」


「ふーん、そっかー。恥ずかしいんだー。私とだと恥ずかしいんだー」


 ……『と』?

 『私()』って言ったな今、こいつ。なんだ、やはり何か知っているのか?

 そう考えると、不安でゲボが出そうになってきた。さっきの母さんの言動といい、知っていると言う可能性が右肩上がりに高くなっていく。俺だって馬鹿じゃない。知っているのなら気付いている事に気付いてしまう位のレベルには怪しさが増してきている。

 朝食で食べた物が一気にマーライオンしてしまいそうだ。


「わ、分かったら十分後だ、十分後だぞ!」


 そう言い返事を待つ間もなく勢いよく立ち上がると、素早く玄関を開けて外に出る。閉まっている玄関の扉を見て、取っ手が動いていない事を確認してサッと家の敷地を後にする。

 これで大丈夫、のはずだ。何も怪しくないはずだ。


 ………………。


 なぜだ、なぜ後ろを付いてくる。十分後と念を押したはずなのにすぐに出てきやがって。

 確かに了解の返事は貰っていないが、空気を読めよここは。双子特有の阿吽の呼吸を出すべきは今だろ。今出さないならいつ出すんだよ。

 これじゃあまるで姉弟仲良くお出かけみたいじゃないか。朝も早いから歩いている人も少ないが、万が一にもクラスの奴に見られようものなら恥ずかしい事この上ない。そう言う年頃なんだ俺は。


 チラッと後ろを見ると、小さなショルダーバッグを肩にかけて、ニコニコとした笑顔で付いてくる霙月の姿が目に入る。このままでは、卓磨の家で霙月と卓磨が鉢合わせて、うっかり卓磨が今日の行き先とかを漏らしてしまうかもしれない。それだけは避けなければ。

 家族に俺の恋愛事情がばれるなど、この上ないほどに嫌だ。


「あ」


 そう、何かを思い出したフリをして立ち止まる。すると、後ろの霙月もほぼ同時に立ち止まった。そう、二人で出かけるとこれが嫌なのだ。双子だからなのか知らんが、同じ行動を同時にとってしまう事がある。いらぬ時ばかり行動を合わせやがって。


「どうかしたの?」


「忘れモンしたわ。取りに帰る」


「そうなの? じゃあ、先に行くね」


 そう、最初からこうすればよかったんだ。俺が先に行けば後をつけられる可能性があるのだから、霙月を先に行かせればいい。なぜこんな簡単な事に気が付かなかったんだ。


 ……ん? 先に行くね? 今、先に行くねって言ったな?

 何か引っかか言い方だな……。まぁいい。霙月を撒ければ深く考える必要は無いだろう。


 そして俺は、近くの曲がり角に身を隠し、霙月の姿が見えなくなるのを待った。

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