4-21-1.日曜日の朝①【烏丸友惟】
日曜日の朝。今日は待ちに待った日だ。
蘇我さんはどう思っているか分からないが、俺にとっては大事なデートの日である。緊張しているのか、いつもより早く自然に目が覚めてしまった。
卓磨を迎えに行くにもまだ時間はある。影姫さんの都合はついたのだろうか。そういえば今日までこの事に関する話は、喫茶店で話して以来していなかった。
まぁ、卓磨の事だし大丈夫だろう。ちゃんと連れてきてくれるはずだ。あいつは何だかんだ言ってちゃんとやってくれる男だ。長い付き合いの俺がそう思うんだから間違いない。
早く行きたいと言う気持ちはあるが、ここはしっかりと身だしなみを整えて決めていかねば。
はやる気持ちを抑えつつ洗面所へ向かう。だが、そこには先客がいた。姉の霙月だ。
霙月も起きたばかりなのか、パジャマ姿で寝惚け眼を浮かべながら、うがいをしている。
「あ、友惟おはよう。今日は早いねぇ」
「あ、おう……おはよう……」
な、なぜだ。なぜ霙月が起きている。日曜の朝はいつも九時頃までは寝ているはず。部活があったとしても、起きるのはいつもより少し遅い八時頃だ。まだ七時だぞ……。
霙月に悟られない様に起きる前に家を出発しようと思っていたのに。出鼻をくじかれた気分だ。
「もうご飯できてるみたいだよー。んふふー」
俺に対してニヤけた寝起き顔を向けてそう言うと、霙月は自室へと戻っていった。
そういえば下の階から、焼いたウインナーの匂いが仄かに香ってくる。その香ばしい匂いに反応して腹が鳴る。
いや、待て。おかしい、何かがおかしい。いつもの日曜日の朝とは何かが違う。
不審に思いつつも、自室に戻り私服に着替える。余計な物は持っていく必要は無いだろう。とりあえず財布とスマホと……。必要な物をポケットに突っ込み、部屋を出る。すると、霙月も同じく隣の自室から出てきた。
俺が霙月の姿を見て不審な視線を送っていると、それに気が付いたのか向こうから声をかけてきた。
「ん? どうかした?」
その姿は、いつもの私服よりもオシャレをしている様に見える。着替えやセットがいつもよりすごく早い。まるで別人のような早さだ。
しかし、昨日まで何も言っていなかったが……霙月も何処かへ出かけるのだろうか。出かけるのだとしても俺には関係ない。そうは思ったが、何か胸騒ぎがした。
「いや、何も無いけど……」
俺がそう言うと、霙月は「っそ」と素っ気無い返事をすると階下へと降りて行ってしまった。
何か、何とも言えない不安がこみ上げてきた。
階下へ降り食卓の方へ行くと、母さんが食事の準備を済ませて霙月と共に食卓へと付いていた。父さんはどうやらまだ寝ているようで、姿は見えない。
「あ、降りてきたわね。ちゃんとしっかりご飯食べて、歯を磨いて行くのよ」
食卓に並べられているのはトーストと目玉焼きにサラダに焼きウインナー。正直な所、朝は食べずにこっそりと家を出て行くつもりだったのだが……。
何なんだ?
「今日は頑張ってね!」
母さんがガッツポーズを取り、こちらに微笑みかけてくる。
「ちょ、お母さん……!」
「あ、いや、珍しく朝から着替えてるって事はどこか出かけるんでしょ? いやー、お母さんって勘がいいわね。偶然早く目が覚めて、偶然朝食まで用意しちゃったんだから。うふふ」
霙月が慌てて母さんの手を下ろすと、母さんも慌てた様子で取り繕う。
……まさか、こいつ等……今日俺がどこに何しに行くか知っているのか?
いやいやいや、そんなはずは……卓磨には、霙月には秘密だと重々口止めをしておいたはずだ。二階堂や三島が女子にそう言う話をする訳も無いし、他に知っている人間がいるとも考えられない。気のせいだ。気のせいだと信じたい。
だが、なぜか鼓動が早くなってきた。




