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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-20-4.増える化物【七瀬厳八】

「で、何か撮れてたのか?」


『いや、例の如く画面は真っ暗で……ついでにドラレコの方も見れるって言うんで、現場の方で確認したんですが同じでした』


 電話相手の柳川の声が少し残念そうに小さくなる。今、また貴駒峠で事故があったと言う事で柳川から連絡を受けたのだ。

 だが、今の口ぶりでは続く事故に近づくヒントになりそうなものは得られなさそうだ。


「あー、そうなのか」


『ええ。同乗していた女性も、確かにカメラのランプは付いていたから撮影はされていたはずだと言っていたんですけど、映像は全く撮れてませんでしたもので。ただですね……』


「ただ?」


『今回は、カメラマンが撮影していたカメラの方が途切れ途切れですが音声のみ録れてまして』


「ほう、で、どんな音声が入ってたんだ?」


『まぁ、殆どは車に乗っていた男女の叫び声や、言い合う声だったんですが……』


 そこで急に柳川の声が近くなり、くぐもったように大きく聞こえてきた。

 周りに聞こえないようにスマホの受け口を近づけて手で覆っているようだ。何かそんなコソコソと話さないといけないようなものが録音されていたのだろうか。


『車がガードレールにぶつかる少し前にですね。何とも奇妙で不気味な声で〝喰わせろ~〟って声が、複数回入っていたんですよ。車に乗っていた三人もその声を聞いているらしくて、声が聞こえてきた直後に車のフロントガラスにべったりと醜い化物が張り付いてきたと言うんですよ。あと、それが原因かどうか分かりませんが、気持ちの悪い液体がフロントガラスに付着しておりまして……』


「喰わせろー……か……」


 その単語には聞き覚えがあった。そう、前に俺が陣野達と貴駒峠を調べに行った時に聞いた声。あの時の声そう言っていた。

 あの時は俺にしか聞こえてなかったようだが、今の話を聞くとどうやら空耳ではなかったようだ。


「で、その液体は何だったんだ?」


『結局分からずじまいですよ。死亡者も出てない単なる交通事故で鑑識に出てきてくれとも言えませんし……それに、その液体がですね……調べようにももう消えてしまったんですよ。どうも、皆が目を離していた瞬間に消えていたらしく、誰も消えたところを見ていないようで。ねっとりとついてたので、こんな短時間に蒸発したとかはありえないと思うんですが』


「消えた、か……残ってりゃ採取して調べる事くらいは出来たんだろうがなぁ」


『ええ、それにですね、私自身こんな話を信じるとか人に話すとかどうなのかなぁと思うんですけど、七瀬警部補が影姫さんを連れてこの現場を調べていたっていうのもありますし、もしかして、と思いまして。それだったら、我々警察の手に追える物じゃありませんし……あと、やっぱり出たみたいです。首の無いライダーと高速で走る婆さんも』


 首無しライダーにターボババアに車に張り付いた化物、か。何かどんどん増えていくな。勘弁してくれ……。

 しかし、だからと言って、我関せずと見過ごすわけにも行かない。捜査一課内でも、そう言う案件を理解しているのは、恐らく俺と九条だけなのだ。再び、今聞いた話を陣野と影姫に話して対策をとらねばなるまい。


「わかった。ありがとう。柳川も気をつけろよ。警察車輌で事故ったら洒落にならんからな」


『ええ、それは重々……では、私は事故状況の確認に戻りますので。また何か分かれば連絡します』


「ああ、頼むな。じゃ」


 通話を切る。横では九条が俺の会話を聞いていた。


「やっぱりまたっすか」


「ああ、しかも、何か化けモンの数が増えてるってよ」


 俺がそう言うと、九条は楽しそうに息を漏らした。


「同類は魅かれ合うンっすかね」


「お前は頭ん中は気楽そうでいいな。俺はもううんざりだよ。ま、とりあえず例の二人に相談だな……その前にもう一回現場見に行くか……」


「今からっすか?」


「今日はもう遅いから明日だな。前は暗くてよく分からんかったし。鑑識の都合もあるだろうから、明日、黒槌くろつちであったストーカー殺人事件の現場げんじょう確認終わったら行くぞ。九条、大丈夫か」


「了解っす。じゃあ、今日は僕はそろそろ帰りますんで。お先に失礼します」


「ん、お疲れさん」


 黒槌から一端署に戻ってから、か。時間的に夕方近くになっちまうかもしれないな。出来れば次の事故が起こる前に解決できるといいのだが……。

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