4-20-3.言い合う二人とカメラマン【柳川幹夫】
「毎度毎度こんな怖い思いさせられてたら命がいくらあっても足りませんよ!」
「ああ? 毎度毎度ってまだ二回目だろうがよ! それに、まだ一回も死んでねぇんだから命は一つに決まってんだろうが! ガタガタガタガタぬかしてんじゃねぇよ! 金稼ぎたきゃ命張れや!」
「嫌ですよ! 命あっての物種って言葉知らないんですか!? 鹿野城さんもカメラ撮ってないで何とか言ってくださいよ! 死ぬところだったんですよ! 死んだらカメラ撮影も出来なくなるんですよ!?」
目の前で二人の男女が喧嘩をしている。その後ろではカメラを構えてその様子を無言で撮影する男。
見た所、三人ともこれと言った外傷は見られない。元気そうで大した怪我はなさそうだ。最近、ここ貴駒峠で起きている事故でここまで軽傷であることは珍しい。相当運が良かったと見える。しかしまたここで事故か……。
溜息を付きながら、ガードレールを歪めて今にも斜面に落ちそうなワンボックスカーを見る。車も所々凹んで傷らだけだが、走るのに支障はなさそうだ。レッカーを呼ぶ必要も無いだろう。
しかし一つ気になる点はあった。フロントガラスの外側にベットリと粘度のある液体が付着していたのだ。それも少量ではない。まるでバケツ満タンの液体をぶっ掛けた感じだ。
「あー、すいません、お取り込み中のところ悪いんですが、そろそろ事情を聞かせてもらってもいいですかね。何があったらこんな状況になるんですか。トンネル前にも『急カーブ注意』の看板はあったでしょうに」
私が二人に割り込みそう問うと、二人はいい合いを止めてこちらに視線を向ける。後ろにいる男が構えているカメラを見ると、とても素人の物とは思えない。マスコミ関係者か何かだろうか。マスコミはあまり好きではない。早々に切上げたいのだが。
「この人が悪いんです! この人が猛スピードでトンネルに突っ込んで……!」
「あぁ!? 仕方ねーだろ! 後ろから煽られたんだからよ! 最初譲ろうとしても追い越して行かなかったじゃねーか!」
「それは江藤さんがスピード落とした時にフラフラ走ってたからでしょ!? 来る前にお酒でも呑んでたんじゃないんですか!?」
「んな訳ねぇだろタコ! じゃあテメェが運転しろや! アシの癖してディレクターに運転さてんだからグチグチグチグチ文句言うなや!」
「私は一言も運転してくださいなんて頼んでません!」
再び言い合いを始める二人。それを見て他の警官達も困り顔である。
この二人では埒があかなそうだ。後ろのカメラマンに聞いてみるしかないか。
「あなた、えーっと、鹿野城さんでしたっけ」
「はい」
こっちの男はまともそうだ。この状況で何事にも動じずにカメラを回し続けていることを覗けば、二人と違って至って冷静である。
「そろそろ一端カメラを止めてもらっていいですか。聞きたい事があるので」
「はぁ、分かりました」
そう言って鹿野城はカメラを下ろす。だが、電源を弄った様子は見受けられなかった。音声だけでも録音するつもりか。これだから嫌なんだ……全く。しつこく切れというと報道の自由がとか何とか言ってくるし……。
「あなた、カメラ撮影してたのなら、一部始終撮ってたんですよね? 今見れるならちょっと見てみたいんですけど、可能ですか?」
見た所、カメラには小さなモニターがついている。
「ええ。車に積んであるノートパソコンと繋げればこれより大きな画面で見れますよ。まだ映像の確認は出来てないので、ちゃんと撮れているかはわかりませんが」
「なら、お願いします」
そうして、私は鹿野城の撮影した映像を確認する事にした。
ポイント評価全く増えませんね・・・伸び悩みですわ。




