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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-9-4.爺さんの説明【陣野卓磨】

最終更新日:2025/3/4

 俺達家族は今、食卓に集まっている。しかし、テーブルを囲む全員の様子は普段と異なっていた。

 俺、祖父、燕、そして名前も知らない白髪の少女が座っている。

 肩ほどまで伸びたその髪は、見事なまでの真っ白さである。ウチにあったのかは不明だが、少女は見たことのない袴姿の着物を着用している。まるで大正時代の学生のような格好である。

 しかし、いかんせん何とも気まずい雰囲気である。誰も言葉を発せず、誰も飯に手をつけていない。燕に至っては、俺と目も合わせてくれない。俺が燕に対して何かしたというわけではないのに、この状況ではしばらく口を聞いてもらえそうにない雰囲気が漂っている。


 しかしこの状況が続く限り、目の前に置かれたシチューが冷めてしまう……。湯気が立ち昇り、良い香りが漂っているというのに、手を付けるのをはばかる空気が流れている。こういう状態になるのならば、話が終わるまで配膳を待つべきであったと考える。


「コホン……えーっとじゃな」


 軽い咳払いと共に口を開いたのは祖父であった。俺と燕はそれに反応し、祖父の方を向く。俺と燕の対面には、祖父と、澄ました顔で座っている少女がいる。俺達のことを気にする様子もなく、目の前に置かれているクリームシチューをジッと見つめている。


「まずは紹介をしておかねばな。この子の名前は影姫かげひめ。えーっと苗字は……」


「一緒でいい」


 少し困り顔の祖父に対して、助言するかのように小声でボソッと少女が口を開く。


「そう、陣野影姫じんのかげひめ。この子はな、えー、静磨しずまの子でだな、お前達の腹違いの姉弟きょうだいになる。年は、ええと、卓磨、お前と一緒じゃ」


 そう述べると、祖父がチラッと横を見る。影姫が「それでいい」と小さな声で呟くと、祖父がこちらに向き直る。

 どこかよそよそしい祖父の言葉は、隣で囁く影姫の言葉も相まって、まるで本当のことを言っているようには見えないが、何も分からない俺としてはその言葉をただ聞くしかなかった。


 静磨しずまとは、ずいぶん昔に亡くなった俺の親父の名前である。父さんの隠し子か……。


 視線を泳がせる祖父を見て、燕は頬杖をつきながらフーンと半信半疑に聞いている。俺も内心では同じ気持ちである。ボソボソと聞こえる影姫の声のせいもあって、まるっきり信憑性が感じられない。


「で、こっちは卓磨と燕じゃ。影姫、お前の弟と妹になるな?」


 そして、なぜか語尾が疑問系でこちらをそれぞれ指差し、俺達の名前を紹介する。

 影姫と目が合い、可能な限りの笑顔で微笑みかけるが引きつってしまい、すぐに視線を反らされてしまった。燕にはニコッと会釈をしている。


「彼女の希望もあってずっと施設に預けられてたんだがな。資金難もあってその施設が閉鎖する事になって……まぁ、施設閉鎖に伴い、ウチで引き取る事になったんじゃ。血縁も一応あることじゃし、ウチで引き取るのが一番だと言う事で。今朝お前達が学校へ行ている間に引き取りにいったんじゃ。燕の叫び声が聞こえるまでは、ワシの部屋で色々と手続きの書類を書いておったからお前達も気づかんかったんじゃろうて」


「フーン、どこの施設? 何で全裸であそこで寝てたの?」


 怪しんでいる燕が突っ込みを入れてきた。怪しむのも無理はないだろう。目の前にいる影姫は、見た限り俺達家族に似ているところが全くない。父さんや母さんはもちろん、俺や燕にもだ。


 しかし、言い出した以上、祖父は俺を助けるために言い訳をしてくれているはずである。俺は心の中で応援するしかなかった。


「……」


 そこまで考えていなかったのか、祖父が黙り込んで考える。

 おい。事前の打ち合わせくらい、しっかりとしておいてくれ。


「し、施設なんてどこでもいいじゃないか。もう閉鎖した施設だったら確認のしようが無いしさっ。今ここにいる事が重要なんじゃないか。血縁もあるんだったら大切な家族だ!」


「そ、そうじゃともっ」


「そうと分かればシチューが冷める前に……」


 俺がフォローを入れようとする。しかし、それも無駄であった。燕の頭に巡る懐疑心を少しも拭うことができず、言葉を遮られてしまう。


「汚兄ちゃんは黙ってて。一緒に暮らすんだったらある程度の事知っておく必要あるでしょ。なんかお爺ちゃんの様子おかしいし」



 俺に軽蔑の視線を向けつつ、間髪入れず制止してくる。

 まずい、まずいぞ。今、なんとなく「汚物」と呼ばれる感じで「お兄ちゃん」と呼ばれた気がする。

 このままでは俺は汚名を着せられたままになってしまう。いや、彼女の胸に実るたわわな果実に触るには触ってしまったんだが、あれは不慮の事故だッ! いや、言うほどでかくなかったが……いやいやそうじゃない、冤罪だ! 冤罪なのだ! 無理矢理触ったわけでも、故意に触ったわけでもない! 断じて俺は無罪であると訴える!


「隣の市にある霧雨学園直轄の孤児施設『霧竜の里(きりゅうのさと)』です。この施設は看板も出していませんでしたし、目立つものではありませんでした。だから知らない人も多いでしょう。先月末で施設が先ほどの説明にもあったように閉鎖になり、今日までは臨時で霧雨学園の理事長宅にお世話になっていました。千太郎さんには以前からお世話になっていた事もあり、血縁の者の申し出があるのならば、と私も理事長も快く受け入れた次第です」


 俺が何とか冤罪を証明しようと脳みそを回転させていると、不意に影姫が口を開く。祖父よりよっぽどしっかりした説明である。祖父も横で冷や汗を垂らしながらウンウンと頷いている。

 しかし、説明をするその視線は燕の方を向いており、俺には一切目もくれない。なんか酷くないか。


「フーン、わかったわ。影姫さんは嘘言ってなさそうだし、一応信じてもいいかなぁ。でも、でもよ……!」


 言葉尻を強める燕。これ以上何を聞こうというのだ。もう勘弁してくれ……。


 食卓の静けさの中で、影姫の落ち着いた姿に俺はどこか不思議な安心を感じつつ、彼女の真意が掴めない不安が胸に残った。

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