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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-17-2.桐生の申し出【陣野卓磨】

「と、言うわけなんだ。桐生さん、何とか手伝ってもらえないか?」


 俺は早速スマホを手に取り、数少ない登録の中から桐生を選び電話をかけると、あらかたの説明を終えた。

 影姫に続いての二回目の説明となるので、今回はスムーズに説明が出来たと思う。桐生はウンウンと真剣に聞いてはくれていたが、返事はどうなのだろうか。頼む、了解をくれ。その答えしか俺は望まないぞ。


『いいよ』


「マジか!?」


『と言いたいところなんだけど……ゴメン、その日は予定が入ってて』


 何で上げて落とすんだよ……勘弁してくれ。「いいよ」の言葉に心躍らせた俺の姿が遠い昔の姿のように思えてくる。


「何か、その日じゃないと駄目な感じの予定?」


 頼む、どうでもいい予定であってくれ。もう頼みの綱は桐生しかいないんだ。屍霊の件も誰にも言ってないくらいには口が堅いし、容姿もそれなりだから桐生となら俺は噂になっても構わないっ。バイトなら俺からマスターに言うし。頼む頼む頼むっ。


『うーん……私は別にそんなでも無いんだけど……その日ね、私の誕生日なの。それでお父さんとお母さんと夕食に出かけることになってて……。近場ならそれまでに帰れるだろうからいいんだけど、火徒潟ひとがた人形博物館って私も昔行った事あるけど、確か隣の県だよね。ちょっと時間的に難しいかな……』


 た、誕生日……だと……。その予定は断ってくれなんてとても言えるものではない。友惟のイベントと同じくらい重要なイベントだ。

 俺は両親が小さい頃に死んだからそう言う経験をした記憶が無いが、やはり大切な物なのだろう。


「そ、そうか。それは……人生最大の大イベントだな……俺の頼みは忘れて楽しんでくれ」


『いや、そこまで言うほどのものじゃないけど』


 もはや俺の耳に、苦笑交じりの桐生の言葉は入ってこなかった。

 まだ日曜日まで日にちはあるのだが、もう頼るアテが無い。俺はマジでどうすれば……。


「じゃ、じゃあな……また明日学校で会おう……」


 そういい画面をスライドさせようと指を当てる間際、桐生の慌てた声が聞こえてきた。


『ちょ、ちょっと待って! あの、私にかけてきたって事は他にアテが無いんじゃないの?』


 その言葉に再びスマホを耳に当てると、溜息が出てきた。


「そうなんだ。俺は友達が少ないんだ……男友達すら少ないのに、女子の知り合いなんてもう……いっそのこと誰か男を誘ってそういう感じに……」


『いや、それは流石に……。わかった、私が探してあげるよ。口が堅そうで場を盛り上げてくれそうな人ならいいんだよね?』


「ほ、本当か? 桐生、お前、まさか神様か……?」


『神様って……はは。あのね、私は陣野君に少しでも恩返しがしたいんだよ。あの時、影姫さんと一緒に助けてくれたし』


 あの時……伊刈の件か。

 俺はさほど役に立った記憶は無いが、桐生にとっては大きな事だったのだろうか。何にせよ、ありがたい申し出である。断る理由が無い。桐生ならバイトもしているし、ひょっとしたら顔が広いのかもしれない。

 お客さんで来ている他校の生徒とかだったら、霧雨学園の方で噂とかも立たずありがたいかもしれない。


「なら頼むよ。桐生、お前が最後の頼みの綱だ。この綱が切れたら俺の身体は真っ逆さまに地獄に落ちると思ってくれ……」


『そんな大袈裟な……でも、何とか探してみるから。見つかったらその子に集合場所とか教えておくから、先に教えておいてくれる?』


「あ、ああわかった。でも、誰か決まったら一応連絡くれよ?」


『うん、忘れないように肝に銘じておくよっ。でも、もしかしたらギリギリになる可能性もあると思うんだけど、教室ではあまりその話はしないようにしようね。烏丸君の為にも。兵藤さんとかに聞かれでもしたら一気に広まっちゃいかねないから』


「おう、そこまでの心遣い、かたじけねぇな。友惟に代わって礼を言うよ」


 そうして俺は、集合場所などを桐生に伝え通話を切った。普段はおどおどしてて頼りなさそうに見えるが、意外と頼れる奴だったんだな。

 後は桐生の返事を待つだけだ。誰が来るんだろうか。期待と不安が入り混じる。どうか、どうか話しやすい人であってくれ。

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