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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-17-1.予定予定予定【陣野卓磨】

「駄目だ。その日は朝から燕や蓮美と約束ある」


「えっ……」


 喫茶おわこんから帰宅した俺は、影姫が居間でバリボリと煎餅を貪りながら、何やら難しそうな本を読んでいるのを見つけて、事の成り行きと事情を説明した。だが、即答で無碍にも断られてしまった。

 影姫が誰かと出かけると言えば爺さんくらいなものだと思っていたので油断していた。


「ど、どうせ買い物か何かだろ? そんなのいつでも行けるじゃん。ってか、お前いつ蓮美と一緒に出かけるほど仲良くなってたんだよ。燕まで……」


「私が誘ったわけじゃない。燕が誘ったらしいんだ。二つ返事で行くと言っていたらしいが」


 そうか、或谷蓮美あるたにはすみと言う選択肢もあったのか。後輩に頼むと言うのは頭に全く無かった……が、今の話だと蓮美も駄目だと言う事になる。

 しかし燕のヤツ、アクティブだな。いつの間に蓮美と連絡先交換していたんだ。


「それよりも、友惟の一世一代のイベントなんだよ。なんとか……」


「駄目だと言ったら駄目だ。先に取り付けた約束を無碍にする事など私には出来ない。誰か他の人に頼め。そもそもだな、私がそう言う場に不釣合いだと言うのは卓磨だって分かるだろう」


 分かる。分かっちゃいるのだが、他に頼む人がいないのだ。二階堂の妹だけは避けたい。何とか説得を……。

 そうだ、影姫が駄目なら燕に事情を話せば日を変えてくれるかも。

 そう思っていると、鋭い影姫の視線が俺に突き刺さった。


「おい、燕に別の日にしてくれないか頼もうとしているだろう。そういう姑息な事はするな。私にだって選択する権利はあるだろう。私はそのどちらかを選べと言われたら、間違いなく燕との買い物に行きたい。大体だな、屍霊が出ているという時にそんな下らん事……」


「そ、そんな殺生なこと言わないでくれよ……それに、影姫だって出かけるんじゃないか。それに関してはお互い様だろ」


「いーや、私は卓磨も連れて行こうと思っていたんだ。蓮美もいるし、場所は新しく出来たすいーつしょっぷと聞いたが貴駒峠に近い場所だ。何かあってもすぐに駆けつけれると判断したからこそ燕の誘いを受け入れたんだ」


「お前、本当はそのスイーツショップ目当てだろ。この間、季節外れの甘栗が食いたいってボソボソ言ってるの燕が聞いてたみたいだぞ……燕に気使わせんなよ」


 俺がそう言って視線を向けるも、スイーツショップ目当てというのが図星なのか、影姫の目線がよそよそしく俺から逸らされる。


「あー、俺だってよ、友惟の頼みじゃなけりゃ、何としてでも断ってたのによー」


 だんだんと引き受けたことによる後悔が大きくなってきた。

 そのままベッドに倒れこむと、精神的に疲れたのか眠気だけが俺に襲い掛かってくる。


「はぁ……ウジウジするなよみっともない。卓磨、女を連れて行くならそんなに難しい事でもないだろう。ほら、烏丸姉とか七瀬とか兵藤とか……ああいうのを連れて行った方が場が盛り上がるのではないか?」


 話題を逸らしたいのか、急に助言をしてくる。

 だが、コイツも俺と同じ考えかい。だが、駄目だ。そのメンバーは駄目なんだよ。

 影姫も分かってて言っているのではないだろうかと思ってしまう。


「いや、そいつらは……」


「なら、オカ研の金田とかどうだ。場が静まる事は無いと思うぞ。それとも、人形博物館だったら紅谷もいいかも知れんな。紅谷なら呪いの人形に関するいらんウンチクを延々語ってくれるかも知れんぞ」


 金田や紅谷は……うーん……ダブルデートだろ? 俺が金田や紅谷と付き合ってるとかそう言う噂が流れるのは何としても避けたい。


「同学年が嫌なら部長とか一年の天道てんどうとかもいるだろう。なんなら江里とかを彼氏といって連れて行くのも奇策かもしれんぞ」


 奇策は無視するとして、部長を連れて行っても喋る事が無くて気まずくなるだけの気がする。そもそも部長が了解してくれると思えないし……。

 後輩を連れて行くのもやっぱなぁ。というか、天道って誰だ……会った事が無いぞ。うーん……。

 そう考えて一人で唸っている俺を見て、影姫は一つ溜息を付くと本を片手に立ち上がる。


「とまぁ、選択肢は幾つもある。後は自分で考えろ」


 影姫はそう言うと、もう助言を出し尽くしてしまったのか本を片手にそそくさと部屋をでていってしまった。

 一人残される俺。誰を連れて行けばいいか思い浮かばず、その場で寝返り大の字になる。

 同時にでかい屁が出た。漂う臭気。影姫がまだ部屋にいたらなんと責められた事だろうか。

 だがそんな物を気にしている余裕も無い。誰か、誰かいないか。誰か。うーん。悩みつつも一通りのクラスの女子や部活の女子、俺の知りうる全ての声をかけれそうな女子の顔を思い浮かべてみる。


「あっ」


 その中に一人、可能性のありそうな人物が思い浮かんだ。桐生。桐生千登勢きりゅうちとせだ。桐生なら、バイトさえなければ誘えるんじゃなかろうか。バイトがあったとしても、友惟の話はマスターには多分丸聞こえだっただろうから、マスターは事情を知っているはずだ。シフトの便宜も図ってもらえるかもしれない。


 思い立ったらすぐ連絡だ。後へ後へと引き伸ばして、向こうに予定なんて入ってしまったら俺は一人で付いていかないといけない事になってしまう。頼む、桐生。日曜日暇であってくれ。

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