4-15-1.●●●●【蘇我啓太郎】
駄目だ……俺は無力なのか……。
〔そう、お主は無力〕
何度も警告をした……だが、声を出せないこの体ではバイクのライトで知らせるのが限界だ。他には何も出来ない……。
皆俺の姿を見た奴等は、その姿に恐怖を覚えてスピードを上げて逃げていってしまう。
〔そう、事故を起こして死んだ物達はお主が殺した様なものだ。お前が現れなければ逃げる事は無かった〕
何も無い暗闇から聞こえる少女の声。俺に語りかける唯一の声。俺をこんな姿で蘇らせた憎い奴の声。
違う、俺は殺してない。殺したのはあのババア……。
〔いいや、殺したね〕
殺して……殺してしまったのか……? 俺が。
〔そう、殺したのだ。お主の魂はもはや穢れた叫びで染まっておる。いかに人を助けようと目論もうとも、それは叶わぬ願い。これ以上、余の意志に逆らう事が、いかに無駄かと言う事を良く考えろ〕
無駄……無駄じゃない……助かった人だっているはずだ……。
〔そんなモノはおらんよ。余に従い、人間を殺せ。そして人間がいなくなれば、助けたいなどと言う戯言も頭から消えよう……〕
人間が……いなくなる……。
〔そう、それは素晴らしき世界。木々が茂り、鳥達が囀り、獣達が野山を駆け巡り、正しき食物連鎖がなされる世界。余は星を救いたいのだ……〕
星を……救う……人間がいなくなれば……。
〔そう、人間がいなくなれば〕
……。
〔殺せ。心の目に留まる全ての人間を。老婆と共に殺すのだ。さすればお前の魂も安らかに……輪廻の輪に戻る事も出来よう……〕
……。
言葉の一言一言が俺の心を侵食していく。広がる闇の中で聞こえる声が、俺を唯一暖める存在となっていく。それは否定できない、拒否できない唯一の声。一人でいるという寂しさからその声にすがるような気持ちが沸いて来る。
殺す。
全ての人間を。
だが、それは俺が本当にしたいことなのか?
もう声は聞こえない。もう少し、もう少し考えさせてくれ。俺はどうしたらいいんだ……。
父さん、母さん、智佐子……七瀬さん……。俺は……。




