4-13-1.湧き出る疑問【七瀬厳八】
「ああ、ありがとう。助かったよ。また何かあったら電話するかもしれないから、その時は宜しく」
『はい、私も恩人の力添えを出来るのなら、出来る限りの事はしますよ』
「悪かったな、当直中に私用みたいな電話しちまって」
『いえいえ、影姫さんと会話できるなんて思ってもいませんでしたから。こちらこそお礼を言いたいくらいですよ』
「そうか、何か知らんがそれは良かったな」
『はい。では、私は仕事に戻りますので……では』
スマホからの通話音は切れ、画面に通話終了の文字が出る。
「どうだ、何か役に立ったか?」
「ええ、大体の出現状況等はつかめたが……」
影姫は思慮深い顔をして考え込んでいる。同時に、どこか疲れた顔をしていた。先程の会話で影姫の中で何かあったのだろうか。
しかし、俺は柳川との通話の中で、この事故の件について以外にも気になる事ができてしまった。柳川が言っていた十二年前の事件の事だ。
十二年前といえば俺も霧雨署で既に刑事部に勤務をしていたが、柳川が何かしらの事件に巻き込まれたと言う話は聞いた事が無い。
それになんだ、影姫は今現在、確か高校二年生だろう。十二年前といえば、四歳か五歳じゃないのか。意味が分からん。影姫の記憶喪失でなければ柳川の思い違いじゃないのか。珍しい名前だから同姓同名というのも考えにくい。
……まさか、漫画や小説みたいに何かの拍子で若返ったとでも言うのだろうか。影姫の大人びた喋り方からしても、そう思うと何だかそんな気もしてくる。しかし、そんな事がありえるとは思えないし、考えれば考えるほど分からん。頭がこんがらがってくる。
そんな事を考えつつ辺りを見回すと、陣野と九条の姿が見えない。
「あれ、二人どこ行った」
俺の言葉に気がついて影姫も辺りを見回す。
「あっちに光が見える。あっちじゃないのか?」
影姫が指差した方向は急カーブの先で、ここから少し離れている。そこには確かに外灯以外の明かりが洩れており、ゆらゆらと揺れている。先程から車の往来も無いし、間違いなく陣野と九条の二人であろう。
「ったく、大事な話をしている時に勝手にウロウロすんなってな……」
「全くだな。何の為に皆に聞こえるようにしてもらったか分からないじゃないか」
影姫と二人で悪態を付きつつ、こちらから向こうへ行こうと思いそう言っていると、九条と陣野はこちらに歩み寄ってきた。
「あ、先輩。電話終わりました?」
「ああ。何してたんだ。お前等もちゃんと話聞けよ。んったく」
「いやー、すいません。何か昔話に華咲かせてたみたいだったんでつい。あ、でも、陣野君はちゃんと肝心な部分は聞いてたと思いますよ」
悪びれも無く謝る九条に内心少しイラッとする。
確かに陣野は途中までいて影姫とボソボソと何か言っていたが、何処まで聞いていたのかわからない。いつの間にか場所を離れやがって。
イライラしつつスマホをポケットに乱暴に突っ込む。しかしうまくポケットに入らなかった。つけていたストラップが引っかかってしまい、入れる勢いでストラップが外れてしまった。小さな音を立ててストラップが地面に転がる。
「あ、先輩。何か落ちましたよ」
「わーってるよ!」
落ちたストラップを拾おうと地面に目を向けると、影姫が既にそれを拾い上げてまじまじと眺めていた。そして、それと俺の顔を見比べる。何が言いたいんだコイツは。
「手作りの埴輪か。えらく可愛らしいストラップをつけているな。……顔に似合わず。娘のプレゼントか何かか?」
いらん一言が入ってるな。どいつもコイツも人を苛立たせる発言ばっかりしやがって。やってられねぇよ。んったく……。




