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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-12-5.二人の会話【陣野卓磨】

「陣野君、それは……僕が君の立場だったらそうは思わないな」


 少し黙った後に九条さんが真剣な口調で語りだす。

 その目は真っ直ぐと俺の方を見つめていた。


「僕が警察に入ったのは、死んだ父親が刑事をやっててかっこよかったてのもあるけど……人を救いたい、悪い奴等を許せない、他にも色々な衝動や感情もあったし……人に言うと恥ずかしい物があるけど、そう言う正義感から来たものが大きかったから、今の君の〝人の為に戦う〟という状況を聞くと羨ましいとしか感じないね」


「死と隣り合わせの状況なのに……羨ましい、ですか……変われるものなら変わって欲しいくらいですよ」


「僕もそうさ。変われるなら変わってやりたい。でも、生憎僕にはそういった特殊な能力は一つも無い。どれだけ踏ん張ろうが手から刀は出てこないし、どれだけ念じようが相手の記憶なんて覗き込めない。仮に僕に何かあるとすれば、あんな化物が出てきても怖じずに歯向かえる、と言う事くらいさ。もちろん、完全に怖じないなんて無理だけどね」


 その言葉に、ためらい無く銃を撃つ姿や屍霊と戦っていた時の九条さんの姿が頭に浮かんできた。

 怖じずに戦う。それだけでも俺からしたら羨ましいものだ。恐怖だけでも心を押し潰されそうになる事があるくらいなのだから。


「その精神力が羨ましいです……俺もそのくらい強ければ影姫に迷惑をかける事も無いと思うのに」


「何を言ってるんだい。君は君のやり方で手助けすればいいじゃないか。お互いがお互いを助け合って解決に導いていけばいい。現に、目玉狩りも赤いチャンチャンコも、その他出てきた屍霊も片付けられているんだろ?」


「それはそうなんですけど……」


「なら、自分のやってる事、出来る事に自信を持った方が良いよ。物事は結果が全てなんだ。今の所、解決という結果を導き出せている以上、自分を卑下する事は無いよ。迷いや不安はミスを招く確立を高くするからね」


「でも、犠牲者は沢山出ています……」


「あんな神出鬼没の得体の知れない化物が相手なんだ。犠牲者を出さない方が無理ってものさ。そう考えるしかない。まぁ、警察官としては犠牲者は無いに越した事は無いと思うけど、僕個人としては多少の犠牲は仕方ない事だと思うね。それに君はまだ高校生なんだ。君がそこに非を感じる必要は無いよ」


「でも、もしその犠牲の上で解決できなかったら……?」


「……君は心配性だねぇ。解決できなかったら、なんて考える方が無駄だよ。解決しなきゃいけない事柄に対して、解決できるまで解決する方法を模索するんだ。前向きに真摯に物事に向かい合って頑張ってりゃ、答えなんて自ずと向こうからやってくるもんさ」


「そんなものなんですかね……。俺にも、そういう事が出来たらいいんですが」


「例えそんなものでなかったとしても、思い込む事が大事な時もあるさ。一人で出来なければ今みたいに、他の人の力を借りればいい。事が事だから打ち明けられる人間も少ないかもしれないけど、その少ない中でも協力してくれる人間っているだろ?」


 呪いの家の時に手伝ってくれようとしていた桐生や天正寺の顔が思い浮かんだ。そうだ。俺は一人じゃないんだ。一人だと思い込んでいたんだ。

 御厨みくりやの死体を思い出して、手伝ってもらったりしたらまた知っている人間がああなってしまうと言う思いから……人を巻き込みたくないという思いから……。

 直接的に戦えなんて事は言えないけど、相談くらいはできたはずだったんだ。


「そう、その顔。何か分かったかい? ほんの些細な事からでも導き出せる結果はあるもんだよ。それに、僕は君等に感謝してるんだよ。鴫野との誤解が全部綺麗さっぱり解けた事に。本人が死んでからあんな事になるなんて夢にも思わなかったからね。ま、いざこざの元となった張本人である小路しょうじが唯一何も知らないってのが笑えるけどね」


 そう言うと九条さんは笑顔を見せる。


「さ、あんまり長話をしててもアレだから、愚痴相談はここらで終わりだね。向こうも話が終わったみたいだし、あっちに戻ろうか」


 そう言い、九条さんは影姫と七瀬刑事の方へと歩き出す。俺もその姿を見て後に続く。


 何だか頭の中にあったモヤモヤが少し晴れたような気がした。

 この人と二人で話すタイミングが今まで無かったので、少し悪く思っていた部分もあったと言えばあったのだが、それも俺の思い違いだったようだ。

 この人は刑事として人を守る為に頑張っている。こんな場所で短い時間ではあったが、二人で話す事が出来てよかったと思えた。

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