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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-12-1.柳川幹夫【陣野卓磨】

「七瀬刑事」


 懐中電灯で辺りを照らしながら見回す七瀬刑事に、影姫が近寄り問いかける。


「どうした。何か分かったか?」


「いや、もう少し……ここで起きた幾つかの事故の状況を教えてもらえないか。出来れば古い事故も含めて」


 影姫の問いに七瀬刑事は腕を組み、こめかみを掻きながら少し困った顔をする。


「事故の状況か……少しは知ってるのもあるが、生憎あいにく、交通事故は俺の管轄じゃないんで昔のはあんまり詳しい事は聞いてないんだよなぁ」


「そうか……なら、誰か詳しく知っている人はいないのか? 警察なら誰かしらいるだろう」


「警察ってのはな、転属が結構あって同じ署に留まってる奴ってのは意外といないんだよ。交通課の奴なら何か知ってるかも知れんが……特に交通課は多いんだよな。異動転属が。三年四年で入れ替わるから」


 二人の会話に気がついた九条さんが、二人に近寄っていく。


柳川やながわさんに電話してみたらどうです? あの人、確か昔に霧雨署管轄の交番勤務で他署に転属してから、去年かそこらに霧雨署に戻って来たんすよね……今日は当直のはずですし、大きな事故でもない限り署の方にいると思いますよ」


 二人の会話を内容を最初から聞いていたのか、九条さんが後ろから七瀬刑事に助け舟を出す。


「ああ、柳川今日当直なんか……何でそんなん覚えてるんだ……」


「ハハッ、記憶力は結構いいほうでして」


「まぁいい。電話してみるか」


 七瀬刑事はボソボソとそう言うと、ポケットからスマホを取り出し電話をかけ始めた。

 暗闇の中にスマホから洩れる光に照らし出される七瀬刑事の顔が浮かび上がる。


「卓磨、スマホは皆で通話を聞けるような機能は無いのか?」


 そんな七瀬刑事の姿を見て影姫が俺に問いかけてきた。

 影姫としては又聞きではなく直接聞きたいのだろう。


「スピーカーホンにすれば聞けると思うけど……」


「そうか。七瀬刑事、スピーカーホンというものにしてくれるか?」


 七瀬刑事は影姫のその言葉を聞くと、小さく頷きながら影姫に視線を移し、軽く手を上げた。


「あー、もしもし七瀬だが……ちょっと待ってな」


 すると、スマホの向こうから「あ、はい」と、中年と思わしき男性が返事をする声が聞こえてきた。これが恐らく柳川と言う警官の声だろう。

 七瀬刑事はスマホを少し操作しスピーカーホンモードにすると、再び会話をはじめた。


「悪い、待たせたな。ちょっと聞きたい事があって電話したんだが……」


『聞きたいことですか。また貴駒峠の事故の事ですか?』


「ああ、そうなんだが……悪い、もっかい待ってくれ――――何を聞くんだ?」


『いや、それを私に聞かれても』


 スマホの向こうから困惑した声が聞こえてきた。もちろん七瀬刑事は柳川氏に話しかけているのではなく、影姫に問いかけたのだ。だが、それが見えていない向こうに分かるはずも無く会話がちぐはぐになっている。


「いや、すまん。柳川に言ったんじゃないんだ。ちょっと貴駒の事故現場を見に来ててな。そのー、協力者がいてよ、事故に関して聞きたい事があるっつっててな」


『協力者?』


「ああ、詳しい事は話せないが、頼りにはなる」


『あまり現場を触られても困るんですけどね……場所が場所だけに、まだ検分とか全部終わってませんし』


「まぁそう言うなって。今後ここでの事故が減るかも知れんし、そうなると柳川にとっても悪い話じゃないはずだ。質問に答えてやってくれないか」


『ええ、七瀬警部補がそういうなら構いませんが……捜査情報ですから答えれる事も少ないですよ』


「そんなこと言わずに協力してくれや。もしバレても、上にはうまいこと言ってやるから」


『弱ったなぁ……』


 その返事を聞くと七瀬刑事は影姫に自身のスマホを手渡した。自分が間に入るより直接聞いたほうがいいと思ったのだろう。

 そんな七瀬刑事のスマホを見ると、あまり似合わないと言えば似合わない小さな埴輪のストラップが取り付けられていた。お子さんのプレゼントか何かだろうか。皆が事故に関して頭を回らせている時に俺はそんなどうでもいい事が気になっていた。


「又聞きになったらややこしくなるかも知れんから、とりあえず直接聞け。俺も横で聞いてるから、話に詰まったら助け舟出してやるから」


 そう言う七瀬刑事の言葉に、影姫は一つ頷くとスマホを受け取る。

 そして、折角スピーカーに切り替えたのにわざわざスマホを耳に当てて話し始めた。


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