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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-11-2.後続のバイク【陣野卓磨】

 バイクはヘッドライトをつけたり消したりと点滅させてピッタリと車についてきている。その距離は一定でつかず離れずである。


「何だ? 煽ってやがんのか?」


 七瀬刑事の表情が、少しイラッとしたかの様に固くなるのが分かった。そして身を助手席に戻すと溜息をつく。

 だが、俺には煽っているようには見えなかった。まるで何かを伝えようとしている様に感じた。影姫も後方を見て様子を伺っている。


「どうします?」


「いい。いいから早くスピード落として先に行かせてやれ。それが駄目なら赤ランプ出す。大体、俺らが現場うろついてる所に後から来て邪魔されたらかなわんからな。野次馬に来られて幽霊の捜査してますなんて言えるか?」


「はは……了解っす」


 その軽い乾いた笑いと言葉と共に九条さんはブレーキを少し踏み、車の速度を落とす。次第に周りの風景の流れがゆっくりになっていく。スピードメーターはどんどん下がり、六十キロほどで走行していたのが三十キロほどまでに落ちたのが見えた。


 だが、バイクが車を追い越していくという気配が全く無い。なぜか気になり、再び後ろを見るとバイクは忽然と姿を消していた。


「あれ? 七瀬刑事、バイクいませんよ」


「何?」


 俺の言葉に七瀬刑事も上体を捻らせ後ろを見る。

 バイクは確かに車の後方にいたはずなのに、影も形も無い。追い抜いた気配も絶対になかったし、向こうもスピードを落としたのだとしてもこんなに早く見えなくなるものだろうか。もしくは、みんなが目を離している間に来た道を引き返したのだろうか。

 何にせよ、皆が目を離している合間にバイクの姿は忽然と消えてしまった。


「おい、九条、ひょっとして……」


「ええ、話に出てた奴かもしれませんね。バイクの色とかライダーの姿見えました?」


「いや、暗がりとライトの光でよく見えなかったな……気が付いていればもうちょっとしっかりと見たんだが……チッ、しくったな。まさか早々に遭遇するなんて思ってなかった」


 七瀬刑事の呟くような声が心なし低く暗くなる。その声は何かを心配している様な声だった。何か知っているのだろうか。


「七瀬刑事、何か知っているのか?」


 影姫も俺と同じ様に思っていた様で、七瀬刑事に問いかけた。少しの沈黙を破ると七瀬刑事は呟くように話し始めた。


「来る前に屍霊らしき存在については軽く話したよな」


「ええ。聞いた話から思い当たるのは、都市伝説にある首なしライダーとターボババアですね。それに姿や状況がそっくりです」


「私が学園で聞いた噂だと首なしライダーだけだったので、ライダー自体がババアだと思っていたが……今追いかけてきていたバイクのライダーは老婆と言える者ではなかった気がするが……はっきりとは見えなかったが、確かに首が無かったように思える。また二体出現しているのか?」


 影姫が面倒臭そうに顔をしかめる。


「いや、主軸となる捜査はババアの方だ。バイクに関しては被害者も出てないから、屍霊ではないと信じたかったんだが……今の消えたバイク、状況を見るとな……」


 速度を落とした車がそのままの速度でトンネルに入る。トンネル内にはオレンジ色のライトがともされ辺りを照らす。車内が黒とオレンジのコントラストで埋め尽くされていった。


「昔、俺が世話を焼いていた悪ガキがいてな。そいつ、このトンネル抜けた先で事故って死んだんだよ。だから……首無しのライダーの話を聞いた時はもしかしてって思っちまってな。ここに来る前に聞いたバイクの色も、そいつが乗ってたバイクと一緒だったし……そう思いたくは無いんだがな。どうしてもそれが気になっちまって」


「なるほど……」


「まぁ、考えたって俺等警察には分からねぇし始まらねぇ。だからとりあえずお前等に頼みに来たって訳だ。俺としては思ってるのと違う結果になってくれって祈ってるがよ」


 自分の知っている人間が、人殺しに加担しているかもしれないと思っていた訳か。それは思う所もあるだろう。


 そして走る先に出口が見えてくる。外が暗いため、トンネルと峠道の境目は分かりにくくなっている。この暗さでは、抜けた先にすぐある急カーブに設置されているガードレールの反射板だけが、事故を防ぐ頼りになるだろう。

 なんという危険な道だ。スピードを出してこんな所を走り抜けたら事故をするのも必然だと思う。車はカーブを曲がると、そこに儲けられた一台分の車が止められる位のスペースに停車した。


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