4-10-3.カレーライス【七瀬厳八】
「いやぁ、僕の彼女はカレーにたまに大根入れるんっすよ。和風出汁入れて煮込んだら結構いけるんすよ」
「カレーに大根とな。それは聞いたこと無いな。ワシはあまり冒険をしないほうなんで、レシピ通り作る事が多いんでなぁ」
「和風カレー作るなら具材としてお勧めっすよ。後入れるならキノコ類っすかねー。あ、大根やキノコ入れる時は水分が結構出るから、水の量は調整しないとバシャバシャのルーになるって言ってましたね。場合によっては無水カレーでも良いんじゃないっすかね」
「無水カレーか。なるほど、今度作ってみるか……」
何の話をしているんだコイツは。二人を連れ出す説明をしておいてくれとアイコンタクトを取ったと思ったのだが、意志の疎通は全く図られていなかったようだ。
「あ、先輩」
「何でカレーの話をしているんだよ」
「いやぁ、なんででしょ?」
俺の少しイラつく感情を織り交ぜた言葉に対しても、悪気も無くあっけらかんと笑う九条。
コイツにアイコンタクトが通じると思っていた俺が馬鹿であったという事か。仕方ない、何とか遠まわしに二人を連れ出せる説明を何とか考えねばなるまい。
「陣野さん、それで、二人に用事という件なのですが……何と言えば宜しいのか、あのー」
「ん? ああ、分かりました。九条さんから聞いてますよ。二人を連れてきますから、少し待っていてください」
分かった? 何が分かったのだろうか。カレーの作り方か?
「九条、陣野さんに何か説明したのか?」
「ええ、とりあえずですね、とある場所で怪奇現象が起こってるから、オカルト研究部に所属している二人の専門的知識と観点から見てほしい場所があるって言いましたよ。他に近場でそう言う知り合いがいなくてって」
「おいおい、よくそんなんで了解得られたな。もっとこう、ふわっとして遠まわしに相手を納得させれる様なだな……まぁ、そう考えると難しいんだが」
「でも、陣野さんが僕の言葉を疑う感じは微塵も無かったですけどね。それ以上の説明はしてないんですけど……」
「けど、なんだよ」
「刑事がそんな迷信的な話をしてて、それ以上聞かないで二人を連れてくるってことはですねぇ、あの人、何か知ってますよ。もしかしたらあの人を連れて行った方が何か分かったりして」
そう言い千太郎氏が入っていった玄関を眺めながら微笑を浮かべる九条。
九条の言いたい事も分かる。千太郎氏が九条の突拍子もない説明でそう言う行動をすぐにとったという事は、恐らく屍霊について何か知っているのだろう。
そして、何の躊躇いもなく二人を連れてくると言う事は、自分よりも陣野卓磨や影姫の方が役に立つと判断しているからだ。でなければ、こうも簡単に聞いてくれまい。
千太郎氏に対する九条と俺の判断は微妙に違うが、何か知っているのではと言う部分では一致している。だからどうなると言う訳でもないのだが。何にせよ二人を連れ出す事は出来そうである。
とりあえずは貴駒峠を見てもらわない事には、続いている事故に関して屍霊が関わっているかどうかという確信を得る事は出来ないか……。




