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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-9-4.もう一つの記憶【陣野卓磨】

「これ可愛いー! きれい~」


 幼い子供が、巾着袋を片手にニコニコしている。市役所で見た燕の友達……柏木さんと顔が似ている。柏木澪本人だろうか。

 一家が囲むテーブルの上にはこじんまりとしたチョコレートケーキが置かれ、数本の蝋燭が刺されている。蝋燭の火は既に消えて部屋は電灯で明るくなっているが、見た所お誕生日のお祝いだろう。


「これはね、お婆ちゃんが澪の為にって言って作ってくれてた物なのよ。澪ももう小学生になったし、そろそろ渡しても無くしたりしないかなって思って……ホントはね、お婆ちゃん、直接澪に渡すのとっても楽しみにしてたんだけどね……。澪が生まれる前に亡くなっちゃったから」


「お祖母ちゃんが? あそこに写真飾ってある!」


 澪の視線の先を見ると、仏壇がありその上に一人の老婆の写真が飾ってある。その顔は、俺が貰った巾着袋から見た映像で見た老婆と同じ顔であった。


「よく言うよ、圭子けいこ、この間 押入れの整理してた時にそれ見つけて『忘れてた!』とか言ってたじゃないか」


「もう、それは言わない約束でしょ! さすがに六年も前の事覚えてるわけ無いじゃない。思い出しただけでも奇跡よ」


「まぁな。でも、思い出したのもこの巾着が見つかったのも、お義母さんが痺れを切らして誘導してくれたからなのかもしれないな。澪、お祖母ちゃんにお礼言わないとな」


 恐らく父親であろう男性が声をかけると澪は立ち上がり、大きく「うん!」と返事をすると、小走りに部屋を出て行った。そして開けっ放しのドアの向こうから聞こえる元気な声。


「お祖母ちゃん、ありがとう! 澪、これ大切にするね!」


 向かった先は仏壇のある部屋。お礼の言葉を言い終えると再び小走りで澪がこちらへ戻ってきた。


「お礼言ってきたよ! お婆ちゃんの写真いつもより笑ってた!」


「ははっ……怖い事言うなよ。写真の表情が変わるわけ……」


 元気に親に報告をする澪に対して、父親の顔は少し引きつっている。どうやら怖い話が苦手な人物らしい。


「もう、そんなつまんないこと言わないの。雰囲気ふんいきでしょ雰囲気ふんいき


「はは、まぁ、澪がこんなに喜んでるんだ。お婆ちゃんもきっと天国で喜んでるぞ」


「うん!」


「じゃあ、お父さんとお母さんからのプレゼントは……」


 それは何の変哲も無い家族の一家団欒の風景であった。そこで映像は途切れ、再び意識が元に戻る。


◇◇◇◇◇◇


「どうだった?」


 いつの間にか近くに寄ってきていた影姫が、意識が元に戻った俺の顔を覗きこむように問いかけてきた。影姫はあまり意識していないのだろうが、時折こういった行動を取られるとドキッとしてしまう。


「え? あ、ああ。とりあえずこれ返すよ」


 俺は受け取った巾着を影姫に返すと、影姫はとりあえずそれを受け取り着物の裾の中へと戻した。そして、俺の隣に座り直すと、「で?」と一言発して頬杖をつき俺の回答を待つ。


「どうだった……か。どうって言われてもなぁ。何の変哲も無い風景を見せられただけだった気もするけど。それをくれた柏木さんの誕生日パーティーっぽい風景が見えただけだったな」


「見た記憶の中で亡くなった人とかはいなかったのか? それが今後何か屍霊に繋がる情報なのかも知れん」


「亡くなった人……お祖母さんが一人亡くなってたな。この間、門宮かどみや市役所にいた燕の友達のお祖母さん。影姫も会っただろ。柏木さん」


 それを聞いて、澪の顔を思い出しているのか、顎に手を当て考える影姫。


「ふむ……最近老婆の姿をした屍霊を見たなんて噂も聞かないしな……七瀬が兵藤と一緒になって、学校で首なしライダーとか言う都市伝説の噂話はしていたが、老婆とかそういう話はしてなかった。さすがに首無しの老婆がバイクに乗って追いかけてくるなんてのは想像が付かんし……」


 またあの二人は変な噂話流してんのか……。

 いい加減痛い目みるぞ。


「屍霊って想像付かない姿してるじゃん? そういうのもあるかもしれないぞ」


「うむ……まぁ、首が無ければ老若男女見分けるのも一段と難しくなるかもとは思うが、首なしババアライダーか……しかし、二人の噂以外にはそういう話は耳にしないからな。テレビとかラヂヲとか新聞でも騒いでおらんだろう」


 安直だが酷いネーミングセンスだ。影姫にそういうセンスを求める様な事でもないのだが、それにしても酷すぎる。


「そりゃそうだけど……まぁ、今迄は屍霊が出現してから物の記憶を見てたからなぁ。今回見た記憶はなんとも言えんわ」


「まぁ、何かのヒントになる事が今後起こるかも知れん。しっかり頭に刻み込んでおいた方がいいだろう。でだ、私の巾着の前に、卓磨が貰った巾着で何か見ていただろ? そっちはどうだったんだ?」


 そうだ、連続で見ていたのでうっかり忘れていた。忘れちゃいけない。俺の巾着で見た記憶の方が酷かったのだ。最後の方は最早、記憶と呼べるような映像ではなかったからだ。


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