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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-6-1.異世界からの来訪者達について【赤鷺黒鷹】

 薄暗い部屋。いくつかのモニターから洩れる光だけがその部屋の中を照らす。


「やはり厄災のカス共の封印の監視を個人に任せるのは限界があるのではないか。赤マントの封印がこうも簡単に解かれるとは失態も失態だぞ。あの封印塚は白鞘しらさやの管轄だっただろう。中頭なかがみにも監視をするように連絡はしていたはずだ」


 年老いた彼は、上から物を言う割りにいつも他人任せである。

 銀聖会穿多記念病院ぎんせいかいうがたきねんびょういんの院長、穿多重道うがたしげみち。同時に組織の生態化学研究室の室長でもある。金の力で組織の今の地位を気付いたこの男には、逆らう者も少ない。


「我々〝あかつき〟は緊急時の対応の為に或谷組を抱え込んでいる。でしたね、或谷組長」


 一番奥に座る女性にそう言われ或谷組長が視線を逸らし小さく頷く。

 その表情は固く、先程から口数も少ない。


「今回の件は……ウチの組員がやらかしたようで面目ない。ワシが家を離れておったのもあって対応が遅れてしまったようでな」


「面目ないで済むと思っておるのか。一般大衆の目前にあんな屍霊の巨体を晒しおってからに。おまけに現場にメディア関係者おって一部始終を撮影されてしまったと言う話もあるらしいではないか! 可能な限り秘密裏に屍霊を始末するのが貴様等の仕事だろうに!」


「……」


 或谷組長は何か言いたげな目をしているものの、口を開かない。恐らく何か予想していなかった事が起きたのだろう。

 そんな事も推測できない穿多室長だ。こういうお冠の時に何を言っても無駄と、或谷組長も分かっているのだろう。


「一人くらいは責任者として立場あるものを残しておく必要があっただろうに。人工の刀人かたなびと研究に施設や金を提供しているワシの面目を潰す気かっ」


「穿多室長、むろん、そんな気は寸分もございませんが……」


 或谷組長がそう言いつつこちらを見る。その顔は平静を装ってはいるものの怒りを隠しきれていない。どうも、責任者を置いてきたはずなのに不測の事態があった、そう言いたげである。


「……しかし、影姫さえウチに渡っていればこんな事にはならなかったはずだ。赤鷺、元はと言えばお前が陣野と一緒にウチへ影姫を運んでくる手はずだったはずだろう。最近姿を眩ませていた様だが何をしていた」


「或谷さん、姿を眩ましていたとは人聞きが悪いですね。確かに報告を怠っていたのは僕の不手際でしたが、僕は戦闘部の主任です。屍霊の殲滅以外に此処を離れる理由があると思いますか」


「なら一月ひとつきも何処で何をしていたんだ」


「四国の方で七人ミサキらしき被害の報告が諜報部からありましたので、そっちに回ってたんですよ」


「厄災級か。しかし、ワシの方にはそんな情報は入っておらんな。本当かどうだか……」


「信じる信じないはあなたの勝手ですから、どうぞお好きに」


 或谷組長はこちらから視線を外すと、いかにも機嫌が悪そうに溜息を付く。実際報告を受けて四国へは出向いたが、七人ミサキは影も形もなく、封印塚に少しの変化はあったものの、封印自体が全て解かれている訳ではなく、その対処も終えている。

 被害と言われていたものは単なる人による殺人事件で諜報部の早とちりだった訳なのだが。


 おかげで僕は陣野さんの家に行く予定が狂ってしまった。当初は僕と妻である牧乃が陣野宅の空き部屋に間借りし、卓磨君に影姫との契約を結ばせ、その後に僕と妻がすぐにでも付きっ切りで月紅石の特訓を始める予定だったのだ。

 静磨さんの息子である卓磨君が契約者に選ばれる可能性は極めて高かったからだ。しかし、それと同時に、諜報部との繋がりも深い或谷にこの計画が洩れるのは絶対駄目だった。だから四国の件を断れなかった。


 結果的に卓磨君が契約に成功したからよかったものの、千太郎さんには迷惑をかけてしまった。

 そして、影姫の提案であるとは言え、僕が遅れたおかげで中頭にまで手を煩わせてしまった。今回、連絡を怠った件で僕も目をつけられる事になるだろうから、陣野宅に行くのは難しくなりそうだ。


「まぁいい……。過ぎた事をうだうだ言うても仕方あるまいしな。それと……話を戻すが、影姫は知らんが、中頭……イミナ・クロイツェンは元の世界に帰りたがっている。だからこそ、こちらの世界に引きずり込まれた時の事をヒントに、向こうの世界の因子を大きく受け継いでいる厄災級の屍霊を放置するのだ。扉を開く手がかりがないかを観察する為に。今回の件もそうだ。赤マントも鬼人もアイツは放置していたからな。イミナが人の命を救うと言う事を念頭に屍霊退治に積極性を示せば今回のような事にはならなかった」


 或谷組長の言う事は尤もである。

 正直僕も、中頭の考えている事はよくわからない。コックリさんの時のように突然協力したかと思うと、今回のように自分の目の届く範囲で事件が起きていても、屍霊殲滅に関して何も協力しようとしない事もある。


「異界より獣を呼び出す召喚師であるリーゼロッテの遺体は我々が保管しているのだ。それを餌に中頭なかがみをけしかけてもよかろうて。いくら厄災の呪いで力が制限されていると言っても、まがりなりにも奴は吸血鬼の端くれだ。人の血を啜れば赤マントくらいはねじ伏せられるだろうに」


 そう、穿多室長の言う通り、中頭は吸血鬼。コックリさんの時にその実力は証明されている。制限されていてあの力だ。

 だが、それは諸刃の剣……彼女にリーゼロッテの遺体を我々が保管していると言う事が知られれば……。


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