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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-5-2.おいしくなる魔法【陣野卓磨】

 ゴトゴトと音を立てながらとテーブルに並べられていく注文品。俺達が来た時にいつも対応してくれているメイドさんだ。

 本名は知らないが、腰辺りにつけられた丸いネームプレートには〝ノエ〟と書かれている。ノエも俺達の事は覚えている様で、俺達は顔見知りの客と言った感じである。


「は~い、愛情溢れるメッセージ付きオムライス七百グラムスペシャルを頼んだご主人様はどちらですか~?」


「はいっ! はいっ! 僕なんだな!」


 先程の真剣な表情は一変、三島がノエの問いに鼻息荒く返事をする。そして三島の前に置かれる巨大なオムライス。流石に七百グラム、いつ見てもすごい量だ。まるで黄色い山である。


「ご主人様、メッセージは何になさいますか?」


「ノエちゃんの熱い心をメッセージにしてそのまま伝えてくれれば僕は何でもいいよ! 僕の心は君だけのモノなんだな! たのまい!」


「おひょ~! 妬けるでござる! 妬けるでござるなぁ!」


 二階堂も先程の真剣な表情は一変、鼻の下を伸ばしてメイドの方に視線が行ってしまっている。

 さっきはどの口が女にうつつを抜かすなとかほざいていたんだ……。


 メイドのノエは三島の発現を聞くと、どこからともなくケチャップを取り出すしキャップを外し、逆さにするとオムライスの上へと掲げる。


「ご主人様からそう言って頂けるとうれしいです~♪ 今日は新しいご主人様もいるのでぇ~、はりきっちゃいますよ~」


 ケチャップのチューブを力の限りガシッと握りつぶすノエ。

 中から赤いどろりとした液体が文字を描くこともなく「ブチュ!」っと一気に噴出した。メッセージを考えるのが面倒くさかったのだろう。山盛りのオムライスの上に山盛りのケチャップがこれでもかと言うくらいに盛られた。まるでオムライスという山から噴き出たマグマである。

 そしてチューブから飛び散ったケチャップが、俺の隣にいる人物の顔に少しかかった。一瞬その人物はピクッと眉間にシワを寄せたが、見た所着ている服にはかかっていない様だった。不幸中の幸いと言うか、よかった。もし今着ている衣服にケチャップなどかかろうものならどうなっていたか分からないところであった。


「おいしくなる魔法かけますね~。さぁ、皆さんもご一緒に!」


「「「「お、おいしくなぁれ、モエモエ……ビーム……」」」」


 男四人で声を揃えてお決まりの台詞を口から漏らす。

 だが、俺を含め四人とも、いつもと違い声に張りがない。

 皆、一人の視線を気にしておりいつものテンションを出せないでいる。そして、元気よくポーズをとっているのはノエだけである。大体の理由はわかっているのだが……。


「どうしたんですかご主人様達! いつももっと元気にやってるじゃないですか! そんなんじゃオムライスが腐ってしまいます! ほら、もう一度行きますよ! せーのっ!」


「「「「おいしくなぁれ、モエモエビーム!」」」」


 皆、半ばやけくそな雰囲気ふんいきで、手でハートを形作りオムライスに向けてビームを流し込む。もちろんビームなどでない。皆の念がこもった思いが込められるのだ。


「あ、ありがとうなんだな! コレで僕はまた、この暗い世の中を元気に生きていけるんだな!」


 三島のその言葉を聞いて、ノエは笑顔を一つ向けると、すぐに真顔に戻り頭を下げると俺達の席に背を向け去っていった。


「卓磨、いつもこんな事をしているのか」


 俺の横にいた人物がナプキンで顔に付いた微量のケチャップを拭いている。

 そう、影姫である。元々は男四人で遊びに来る予定だったのだが、俺達が四人で遊びに行くと言うのを聞いて、興味本位で付いてきたのだ。


 何としてでも付いて来て欲しくなかったので、最初は影姫の趣味に合わないだろうからと断ったのだが、今の時代の事をもっと知っておきたいという理由で強引に押し切られて連れてきてしまった。

 影姫がいたから先程のビームも元気がなかったのだ。気の知れた仲間内ならいざ知らず、あまり喋らない女子の前でこういう事をするのは流石に皆恥ずかしいのであろう。俺も含めて。


それに今日はいつも着ている着物ではなく、今時の女の子と言ったひらひらとした春物の洋服を着ている。以前燕と買い物に行った時に買った物だろう。いつもは見ない洋服姿を見ていると何か新鮮で少し気恥ずかしくなる。


 そしてどうでもいい事だが、影姫はメイド喫茶に来る前の同人ショップではBL(ボーイズラブ)のコーナーの周辺をうろうろしていたような気がするが、そういう趣味でもあるのだろうか。


「いや、それはまぁ……なあ?」


 なんと言っていいか分からず他の三人に視線を向けるが、皆目を逸らしている。まるでいつもはやってないとでもいいたそうな顔だ。

 男の友情はどこへ行った。皆、表向きは気にしないようにはしていたようだが、やはり女子が一人混じっているという事が気になってしまっていたようだ。


「恥ずかしくはないのか?」


 この台詞。

 影姫の場合は悪気があって言ったのではなく、ただ単純に疑問に思って言っただけなのだろうが、影姫の真顔から放たれるそのグサリと来る一言に、男四人のナイーブな心臓は撃沈を余儀なくされたのであった。


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