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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第四章・暗闇の中のチキンレース
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4-4-2.貴駒峠の交通事故【七瀬厳八】

「まぁ、貴駒峠は途中のトンネルを出てちょっと行った所が県境で、隣の県警とも揉めてますからねぇ。事故処理の押し付け合いで、交通課も面倒臭いって」


「ほーん……まぁ、俺等の課には関係ないわな。せいぜい頑張ってウチの管轄に入らないように押し付けてくれって応援しか出来ないわな」


 単なる交通事故では刑事課の出張る所ではない。わざわざ余計な首を突っ込む事もないだろう。仕事をこれ以上増やしたくない。あまり増やされて過労死なんてのも真っ平ご免だ。


「いやぁ、それがですね。昨日の事故は車が崖下に転落したらしいんですけど、助手席に座っていた女性が奇跡的に助かったらしいんですよ」


「そうなのか。あの急斜面を車ごと落ちてよく助かったな。よかったじゃないか。九死に一生って奴だ」


「ええ、それでですね、ここからが肝心な話なんですが……」


 九条は急に真顔になったかと思うとこちらに視線を移す。


「なんだよ」


「その女性が顔を強張らせて震えながらこう言ってたらしいんすよ……。『ババアが、ババアが猛スピードで車を追いかけてくる……!』ってね」


 九条がまるで怪談でも話すかの様に、おどろおどろしく言葉を吐き出した。


「やめろよ……俺がその手の話が嫌いなの知ってるだろ?」


「連日の屍霊事件で耐性付いたと思ってましたが」


 九条がそう言いつつ嫌な笑みをこちらに向けてきた。

 確かに目玉狩りの姿を目の当たりにした俺としてはあれ以上の恐怖はなかなかないとは思うが、それでもお化けなどなんだのの話は苦手である。


「しかし、なんだそれ? ババア? よく分からんな……あ、まさかお前、また屍霊が原因だとか言いたいんじゃないだろうな? どうせ事故によるショックで頭が混乱してるだけだろ? 勘弁してくれよ……んったく」


「先輩何言ってるんすか! ババアっスよ、ババア! ババアが走る車に、素足で走って追いかけて来たんすよ! 信じられますか!? 猛スピードで走る車の横をババアが走って追いかけてくるんすよ! 屍霊以外に何があるっていうんですかっ」


 九条が何やら無駄に興奮している。仕事熱心なのはいい事だが、本当にやめて欲しい。前の事件で余計な首を突っ込んで、結構な怪我をした癖にまだ懲りていないのかコイツは。


「アホらし……どうせ怖さのあまりに幻でも見たんだろ。そうそうあんな化物が現れてたまるかってんだよ」


「先輩はもうちょっと現実を見ましょうよ。先輩は目玉狩り、僕は赤いチャンチャンコ。僕等はもう、見たどころか接触しちゃってるんですから。その可能性を捨てたら駄目だと思いますよ」


 しかし、否定したい気持ちと、その女性の話が本当なのならば、やはり屍霊が絡んでいるのではという気持ちが頭の中でぶつかってしまう。


「……屍霊……なのかねぇ」


「そう、僕はそう思うんですよ! また、化け物が出たんすよきっと! 今度はどんな奴なのか、ワクワクしますね! 今度こそ叩きのめして勝利をこの手に収めてやりますよ!」


 九条が嬉しそうに両手で握りこぶしを作っている。勘弁してくれ。もう、あんな死ぬような思いはまっぴらなんだ。コイツも俺と同じような経験をしているはずなのに何故こんなに嬉々としていられるんだ。


 ああいうのは或谷組みたいな変人が相手する仕事なんだ。俺等の仕事じゃない。


 しかし、本当に屍霊なのだとしたら、しかるべき人物に相談しないといけない。俺は或谷組とは接点がないので……やはり陣野の子等になるのか。

 彼等を連れて、現場にそういう痕跡がないかどうかを見てもらって、屍霊が関わっているのかどうかくらいは見ておいてもらった方がいいかもしれない。


 そして、屍霊は関わっていないという確信的安心を得たいのだ。


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