4-3-3.影姫のスマホ【陣野卓磨】
「ところで卓磨、話は変わるが、いざと言う時に連絡が取れないと困るだろうと言う事で、私も千太郎にスマホを買ってもらったのだ。見てくれ」
影姫が徐にどこからともなくスマホを取り出しテーブルの上に置く。
「どうだ、卓磨のものより新しい機種らしいぞ」
それは最近発売されたばかりの最新機種のスマホであった。手帳型のケースに入れられており、綺麗なストラップが付いている。
俺のより新しい機種で色々機能がついていると言っても、影姫に使いこなせるとは思わないのだが。何と言うか、影姫には高齢者用の使いやすいスマホの方がいいのではないかと思ってしまった。勿論そんな事は口に出して言えないが。
「影姫……確かに連絡は取れた方がいいし、持っていてもらった方が俺もありがたい。でも、お前こんな物を買ってもらって使いこなせるのか? ネットを網とか言ってたお前が……? 機械オンチなのに……この間だって、ゆで卵を作ろうとして電子レンジに卵をそのまま入れて爆発させてたじゃないか……」
「う、うるさい! あれは機械が使えるどうこうは関係ないだろう! いらん事を思い出させるな!」
影姫の顔が赤くなる。よほど恥ずかしかったのだろう。あの時の影姫の慌てっぷりと言ったら、普段の姿からは想像も出来ないものであった。
「敵襲か!?」とか言って部屋の中で刀を構える始末だ。いくら燕にも自身の刀がばれたからと言って、そうそう刀を家の中で振り回されちゃ物騒な事この上ない。
「す、スマホの使い方はわからんっ。だが、触ってればそのうち使えるだろ。ようはだな、怖がらずに触れてみる事が大事なんだ。それに、私はそんなに難しい事をするつもりは無い。とりあえず電話が出来れば十分だ。卓磨と別行動を取っている時に緊急事態が起こらんとも限らんからな」
「じゃあとりあえず登録だけしとくか……スマホどこに置いたっけな……」
部屋を見回す。パソコンデスクの上にそれはあった。最近は伊刈のスマホと間違える事が無いように、別々の場所に置いている。のそりと立ち上がり、デスクの上からスマホを手に取ると、元の位置に戻り座る。
「電話はかけれるんだよな?」
「うむ。流石にそれは覚えた。あと、登録のしかたも覚えた」
「ん、そうなの? でもなんか心配だな……。流石に俺の番号間違えられてたらいざと言う時にホント困るから、俺が登録するよ」
「む……信用が無いな……」
影姫がどこか釈然としないと言った顔をしながら覚束ない手つきで、スマホの画面を弄りだした。
「じゃあ今から言う番号にかけてくれよ。それで俺も登録するから……」
「いいや、やはり私が登録する。見くびるなよ。さっさと言え」
俺に優位を取られるのが嫌なのか強情な奴だ。
微妙に指が震えている影姫を見つつ、心配な気持ちを抑えて自分の番号をスマホの画面で確認する。
そして俺が番号を言い、影姫がそれを復唱する。
だが、少しボーっとして聞いていた影姫の復唱に何処か違和感を感じた。
そして影姫が画面をタップするのを見守る。ピ・ポ・パと、操作がかなり遅い。まるで初めてパソコンを触った年寄りが人差し指だけでキーボードを打ち込んでいるかの如き遅さだ。
「ほんとに登録できるのか?」
「当たり前だ。集中しているんだから話しかけるな。既に千太郎と燕と七瀬刑事と部長と紅谷の番号は自分で登録したんだ。五件、五件もだぞ? 絶対にできると確信している。あぁ、出来るね。絶対だ」
燕と爺さんはともかく何故部長と紅谷の番号を……。俺でも知らないと言うのに。というか、俺は部員の番号を誰一人知らない気がする。なんかはぶられてんのかな……。そう思うと少し悲しい気持ちになった。今度会ったら聞くか……。
「よし、かけるぞ」
影姫のスマホを見ると、「たくま」と平仮名で表示されており、通信の画面となっている。ちゃんと登録自体は出来ている様だ。だが、その登録内容が合っているかどうかは別の話だ。その証拠に、俺のスマホが一向に鳴らない。
「おい、番号間違ってるんじゃないのか?」
「え? コレじゃないのか?」
そう言って影姫がスマホの画面を見せてきた。俺の番号の様であるが、よく見ると一桁入れ違っていた。
「違う、一つ入れ替わってる。俺の番号はコレだ」
そう言って俺のスマホに表示されている自身の番号を影姫に見せた。
と、その時。プルルル、プルルル、と、影姫のスマホの聞き取り口から洩れる電子音が、音量設定が大きいのかこちらまで聞こえてくる。影姫が俺の言葉を聞き、訂正しようと画面に触れようとした時、呼び出し音が止み誰かが呼び出しに出てしまった。
もっと読まれたいという気持ちはあるけどどうしたらいいものか・・・・・・。
ツイッターも宣伝効果薄そうだし。




