4-3-1.光らない月紅石【陣野卓磨】
「うーん……」
ローテーブルの上には月紅石の付いた数珠。その上に手を掲げて念じてみたり、腕にはめたり外したり。時には祈りながらも色々試してみたが、一向に何の反応も示さない。あの時光ったのは偶然だったのだろうか。
「何をしているんだ」
そんな俺を見かねて、テーブルの向かいで本を読んでいた影姫が声を掛けてきた。
今はいつもの着物を着ていない。風呂上りで寝巻きを着ている。こんな近くで同年代の女子のパジャマ姿を見るのは、どこか慣れなく少し興奮してしまう。
「あ、うん。この前さ、俺のコレ光って使えたじゃん。あれからウンともスンとも言わねぇんだよな」
「一度使えたことだし、何かの拍子でまた使えるだろう。少しずつその時の感覚を身につけていくしかない。戦力となるのならば私としては急いでほしいが、能力は人によって様々だし、急いでどうにかなるものでもないかもしれんしな」
「急がば回れ、ってか……」
「うむ……まぁ、急いでほしい他にも理由は色々あるが……まぁ、あの時の状況をよく思い出して、調べながらやるしかないんじゃないか。何か発動のきっかけとなる条件的なものがあるのかもしれんし」
そう言うと影姫は視線を読んでいた本に戻す。
「あの時の状況ねぇ……」
思い返してみるとあの時は本当に必死で、何をしていたかもよく覚えていない。
ただ、死にたくない、燕に死んでほしくないという気持ちでいっぱいであった。そういう生への執着が関係しているのであろうか。だとしたら、普通に生活している時では光らせる事は出来ないだろう。
そして、何故伊刈が出てきたかだ。伊刈の両親が相手だったからなのか。
しかしそうなると、今度他の屍霊と出くわした時、その相手が赤マントの様に俺の知らない人物だと、光っても何も出てこない事になってしまう。
考えても考えが纏まらない。他に何か必要な事があるのだろうか。考えれば考えるほどド壷にはまってしまう。
「影姫はどう思う?」
「何が」
読んでいる本越しに、仏頂面で視線をこちらへ移す影姫。
「俺の能力だよ。影姫はこうしたら使えるんじゃないかって思う案、何かないか?」
「そんなものわからんよ。大方の人間は厳しい修行や鍛錬を経て自分の能力がどんなものかを見極めて使える様になるんだ。最近の事情はよく知らないからはっきりとは断言出来んが、卓磨のように短い期間に付け焼刃的な特訓をしただけで使える様になるなんてのは稀なんだ。そうそうある事じゃないと記憶している」
「そうか……」
再びテーブルの上に置かれた月紅石を眺める。綺麗な石で、LED電灯の光を反射し輝いてはいるが、俺がほしいのはこの光ではない。外部からもたらされる輝きではなく、この石自身が発する輝きなのだ。
「まぁでも、赤マントの怪人を倒せたしとりあえず今の所は急がなくてもいいか。ここ数日、他の屍霊が出現したなんて噂も聞かないし」
そんな俺の言葉に影姫は溜息を付きながらこちらに視線を移した。
「アホ。あいつが消えた所を見ていなかったのか?」
「え? 消えたところ?」
赤マントが消えたところ……何かあっただろうか。確か、影姫と蓮美が前後から首を切り落として、そっから鬼人達の首を切り落として……。それから鬼人達がいつもの様に灰になって赤マントは……。
よくよく思い出してみる。すると一つの事を思い出した。




