3-99-1.エピローグ
あれから五日がたった。
隣の門宮市では市役所で市民や市議会議員が大勢殺された事により、テレビのニュースやワイドショー、ネットのニュース記事やまとめサイトでもその話で持ちきりである。
事件はテロリストの仕業と言う事で片付いているようだ。殺された人達が当事撮影した殆どの映像は、残った或谷組の連中がその場で消去していた。僅かに残されたいくつかの映像もブレが酷く、結局事件に便乗した作り物と言う結論が出されていた。
辛うじて命を取り止め残された目撃者の証言も、ショックによる妄想妄言であると言う事で片付けられたり、中には突然発言を翻して人為的なテロであったと言う人も現れた。更に中には突然の失踪者も……。
そして、被害者の実名は全て公表、しかし犯人とされる名前等は公表されていない。
もちろん、真の犯人は既にこの世にいないし、公表できるような存在でもないからだ。七瀬刑事も所轄外の事件ではあるけどもこれに関しての仕事でてんやわんやらしい。
あの戦いの後に蓮美に聞いたのだが、屍霊に関する事件は裏で手を回して情報を操作してくれる裏の組織があるらしい。或谷組はその末端で動く組織と言う訳だ。
そう言われれば、目玉狩りや赤いチャンチャンコの事件に関しても、表のニュースで屍霊に関する情報が一切出ていなかったのが思い出される。今回発言を翻した人達もこの組織の金によって動かされたと言う訳だ。
それと、その根回しによって屍霊事件の被害者に関しては名前が伏せられる事が殆どらしいのだが、最近はメディアがうるさく、関係各所が折れてしまうケースが多くなってきているらしい。蓮美も、普通の事件でも犯人の名前を伏せまくってるのに被害者を晒し上げるのはどうなのか、とぼやいていた。
あれから俺も燕も、ショックは大きかったものの学校には休まず通っている。
燕はというと、たまに俺をボーっと見ている事はあるが、何も聞いてこない。気になる事も多いだろうが、事前に影姫から何か聞いていたようで、屍霊と戦う影姫達を見ていろいろと察したのだろう。だが、いずれは時間を取って話すべきであるとは思っている。
月紅石に関しては、一度発動する事が出来たのなら、今後は貴方の気持ち次第、影姫の頼みでもあったから最後まで付き合ってはあげたいのは山々だが、私も忙しいので後は陣野君自身に任せる。と言う事で理事長の特訓も終わりを迎えた。
「やぁ」
廊下を歩く俺と影姫の後ろから声が掛けられた。振り向くとそこにいたのは或谷蓮美である。あの戦いからまだ五日しか過ぎていないというのに、赤マントや両面鬼人との戦いで受けた怪我はほぼ治っているようだ。この治癒力も鬼の力の一端なのであろうか。
大きな怪我こそしていないものの、体中が筋肉痛で痛みを引きずっているのは俺だけである。
なんだか情けない。
「学園で合うのは珍しいな。初めてか」
影姫の言葉に苦笑を浮かべる蓮美。
「いやぁ、まぁ、今までは学校休みがちってのもあったんだけど……一般人の死人が滅茶苦茶出たじゃん? 親父達にこっぴどく怒られちゃってね……しばらく学業に専念してろってさ」
「そうか。まぁ、その方がいいかもしれないな。蓮美は何処か頭が悪い」
そんな影姫の言葉に更に表情を曇らせる蓮美。
「たはは、月紅石も取り上げられちゃったよ。ま、どこに置いてあるかは知ってるから、いざとなったら勝手に持ち出すけどね」
苦笑いを浮かべながら頭を掻く蓮美。
「いろいろ――大変だったみたいだな」
「あー、ね。江藤達の映像買い取るのに、口止め料含めて五百万もぼったくられたしねぇ。組員も結構やられちゃったし……なにより、ひよひよの月紅石が行方不明ってのが痛い痛い」
蓮美の顔が暗くなる。なぜかは知っている。蓮美の世話役ともなっていた信頼の置ける部下、日和坂政太郎は先日の戦いで赤マントの手により命を落としたのだ。
蓮美にとっては親よりも身近にいた存在だったのだろう。出会った頃から暗い顔はあまり見せなかったが、今は違う。笑顔を見せていてもどこかに陰りがある。
「蓮美……あんまり気を……」
「そうだぞ。人間は皆いつか死ぬんだ。ましてやお前達みたいな立場だと尚更その期は近くなる。あまり気を落とすな」
影姫もその事に関しては気に留めているのか表情が少し暗くなった。
「いやいや、影姫先輩に陣野先輩。慰めの言葉とかはいらないよ。影姫が言った通り、私達のしてる事ってこういう仕事なんだって分かってるから。昔から、よく見る組員が突然いなくなるって事は多かったし、私も仕事に関わるようになって、いつかはこういう日が来るんじゃないかとは思ってたからね。まぁ、思ったより早かったってのはあるんだけどね……それと、私ももうちょっと皆の信頼得られる様に頑張らないとね……いつまでもくよくよなんてしてられないよ」
こうして見ると健気である。先日のヤスの言動からするに、日和坂以外の組員からはまだ一線を引かれているのだろう。
「蓮美、何か困った事があれば相談くらいは乗る。或谷組は心底嫌いだが蓮美の事は嫌いではない。だから一人で抱え込むなよ。お前に何かあって屍霊になどなったら、とても手に負えなさそうだしな」
「あんがと。肝に銘じとくよ」
影姫の言葉を聞いて嬉しそうに頷く蓮美。その表情が作り物の笑顔ではない事は一目で見て取れた。
「あ、そういえば二人ともオカ研だったよね」
「え、ああ。一応そうだけど」
「一応って……。まぁ、私も入部したから宜しくー。しばらく暇になりそうなんでね。部活にでも入らないとやってらんないよ」
「え、マジか……」
「マジマジ。宜しくお願いしますね、陣野先輩、影姫先輩っ。にはは。んじゃ、またね~」
そういい背を向けると軽く手を振り俺達の元を離れる蓮美。
オカ研……なんというか、濃いと言うか独特な面子が集まってくるな。影姫の顔を見ると「なんだ」と言わんばかりの目でこちらを見ている。
普通なのは俺と長原くらいじゃないだろうか。部長といい、副部長の紅谷といい、金田といい、影姫といい……オカ研の女子部員は皆変わり者だ。これ以上俺はあの部についていけるのか……。また幽霊部員に戻ろうかな……。
先の事を考えると憂鬱になった。
第三章 赤マントの怪人・両面鬼人 完
第四章 首無しライダー・ターボババァ・※※※※※へ 続く




