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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-38-4.不安定な能力【陣野卓磨】

「うっ、ふぁっ!」


 変な声と共に目を開く。目の前の鬼人達は、すごく微量ではあるが、体から浅黒い灰のような微粒子が零れ落ち始めている。今までの屍霊と同様、徐々に灰となり始めているのだ。


「何が見えた」


 影姫が剣の鬼人に視線を向けつつ近寄ってきた。

 その仕草や声に、鬼人に対する敵対意識はもう無いように感じ取れる。


「多分、赤マントの生前の姿だ。一色という男の人だった」


「今の依代よりしろとなっている男か……他には?」


「ああ、多分なんだが燕が執拗に狙われる理由が……」


 そこまで言いかけた時だった。市役所の囲い塀の外から幾人もの男達の悲鳴が聞こえてきた。


「おい! そっちだ! そっちに行ったぞ!」


「ぎゃああああああ!」

「ぐわっ!」

「ひぃ!」


 複数の悲鳴と同時に、市役所敷地の上空や塀の辺りで何かがバチバチと弾ける音がした。それを見てヤスが動揺を隠せずに辺りを見回している。


「なっ! 結界が! ……マサの野郎、まさか殺られたのか!?」


 ヤスが叫び声のした方を見て驚きの声を上げている。

 この驚きようからして、今の叫び声は或谷組の連中なのだろうか。


「結界も外からやられちゃ一発ね。で、本命も本命、大本命のお出ましってとこかね」


 蓮美の視線の先、市役所の門前。そこに奴はいた。

 赤マントの怪人だ。赤い血の滴る二本の剣を両手に静かに立ち尽くし、こちらを見ている。


 しかし、こちらには伊刈も加わった。ひょっとしたら勝て……。


「あれ!? 伊刈は!?」


 周りを見ると、伊刈の姿は消えていた。辺りを見回すがそれらしい影は全く見当たらない。


「卓磨が鬼人の手に触れたと同時くらいに黒い粒子となって消えたぞ。どうやら、記憶を見るのとは同時に出て来れないみたいだな」


「嘘だろ!?」


 伊刈がいないとなると、頼れるのは手負いの影姫と蓮美だけである。

 しかも、燕が狙われているのだとしたら、それを守りながらの戦いになってしまう。燕だけじゃない。ここには燕の友達や、ついでに江藤達もいる。犠牲者をこれ以上出さずに勝てるのかと考えると、あまりいい結果が浮かんでこない。


 いや、もう一度伊刈が出てきてくれれば……!


 月紅石を天に掲げて念じて見る。しかし、月紅石はウンともスンとも言わない。光り輝くどころか、紅い石が少しくすんで見える。やはりアレはまぐれだったのだろうか。それとも制限時間か何かがあるのだろうか。

 石が光って伊刈が出てきたから間違いなく月紅石の能力ではあると思うが、やはり自在に使えるとまでは至っていなかったようだ。


「何をしている?」


 影姫が赤マントの方に向かい刀を構えながらいぶかしげな表情でこちらを見ている。

 燕も柏木さんも江藤達も、影姫の言葉を聞いてそんな俺に注目している。なんとなく恥ずかしい注目の的だ。


「伊刈が出てきたのは俺の月紅石の力なんだ! 使えたんだよ月紅石を……! だから!」


 光らない月紅石。何故だ。何故光らない。さっきは光ったのに。


「……卓磨、諦めろ。発現段階で自在に扱えないと言うのはよくある事だ。赤マントは残った私達で対処するしかない。出来なければそれまでだ」


「でも、影姫も蓮美も両面鬼人に対しても劣勢だったじゃないか! アイツだって鬼人と同じくらいの強さなんだろ!?」


 影姫は俺のそんな言葉に無言で赤マントの方を見つめている。

 蓮美はと言うと、やれやれといった感じだ。


「陣野先輩、うーん……まぁ、どの道ね、陣野先輩は単体だと戦力にはならないから、またまぐれでさっきのが出てくるように祈っててよ。出てくりゃ設けモンでしょ。……ひよひよの増援も期待できなさそうだしね……」


 蓮美も仕方ないと言わんばかりに、赤マントの方に向き直り刀を構える。

 そうだ、日和坂はどうしたんだ。ヤスと一緒に赤マントの怪人の方へと向かったんじゃなかったのか。

 日和坂が囮になってヤスが燕と柏木さんを助ける為にここに連れてきたんだとしても、赤マントが単体でここに来るのは……まさか日和坂は……そういう事なのか。


 蓮美の方を見るも、もう俺の方に目は向けていない。蓮美も、日和坂に関して何か察しているのだろう。

 だが、軽い言葉とは裏腹に肩を揺らしてで息をしており疲れを隠せていない。とても赤マントと対等に戦えるような状態には見えない。


 戦力外通告……。

 ついに俺も力になれる時がきたと思ったのに。そう考えると悔しさともどかしさがこみ上げてきた。


 そして、そんな月紅石を見つめて祈る俺の背後で、ズシンと立ち上がる二体の影があった……。


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