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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-37-2.俺が見た記憶と魂の塊【陣野卓磨】

 ……伊刈……伊刈……そうだ、伊刈だ……駄目じゃないか……。

 よく考えたら、このまま伊刈が両面鬼人を攻撃するってのは親子で殺し合いさせてるって事なんじゃないのか。今出現した伊刈はその事を知らない。

 そんなの駄目だろ!


「伊刈!」


 大声を上げて伊刈を呼ぶものの、激しい攻防で俺の声に反応する余裕が無いようだ。だが、知らせない訳にはいかない。例え返事が出来なくとも、俺の声が耳には入っているはずだ。


「伊刈、聞いてくれ! そいつは……お前の両親なんだ! 何とか説得か何か、出来ないのか!?」


〝えっ!?〟


 鬼人の剣を受け止め剣閃をずらしてはかわす伊刈。だが、業を煮やしたのか再び背中側から剥がれた弓の鬼人が、身を翻し伊刈に対して弓を振りかざして重い殴打一撃を放つ。遠心力で加速した弓による殴打が伊刈の体に直撃する。


っ!!〟


 ミシミシと骨が軋む音が此方まで聞こえる。何とかいくつかの触手で辛うじて受け止めたものの、腕に直撃した弓殴打の威力は相当なものの様だ。

 間髪いれずに弓を引き、素早く弓を構える弓の鬼人。伊刈をターゲットにし、一本の矢が何も無い空間から装填される。あの至近距離で矢を食らえばひとたまりもないだろう。


「い、伊刈っ!」


 俺の言葉に気を取られたせいか、攻撃の手が緩んでいた。射られる寸前で矢に触手を絡ませ巻き取るも、矢はそのまま発射される。射られる方角こそずらせたものの、その放たれた矢の速度と衝撃を受けて矢と一緒に吹っ飛び地面を転がる伊刈。


 しまった、言うタイミングを間違えたか。せめて影姫か蓮美が援護に入った時に言うべきだった。

 焦りと緊張で判断力が鈍っている。目の前で起きている状況を理解しきれていないのが自分でも分かった。


 だが、二体の鬼人を見ると少し様子がおかしい。弓での殴打を放ち矢を射たものの、俺の叫びを聞いた直後から動きが鈍っているように感じる。

 そして、何かを感じ突端か、吹き飛ばされた伊刈を見て動きを止めている。

 視線は固まり、弓を構えたまま、その後の攻撃に回らないのだ。そして両鬼人共、武器を下ろし吹き飛ばされた伊刈の姿をただ見つめ、硬直している。伊刈の存在に、その人物が自分にとってどういう人物であるかという事に気がついているのだろうか。面のように変わらない鬼の顔を見るが、その心は分からない。


「大丈夫か!?」


 今伊刈に近づくのは危険だと分かっている。いつ鬼人達の攻撃が降りかかってくるか分からないからだ。

 だが、今なら大丈夫なんじゃないかと、なぜかそんな気がした。

 伊刈に駆け寄ると、うねうねと伸びる指を支えに起き上がる。影姫と蓮美も、こちらに駆け寄ってきて鬼人の方に向くと刀を構えた。


「す、すまん、突然の事で援護が出来なかった」


「誰それ、知り合い? 陣野先輩、変わった知り合いいんのね……」


 二人とも動揺を隠せる心境ではないようであった。

 中でも、なぜだろう。仮面をしているので表情はあまり読み取れなかったが、蓮美からは少し悲しげな雰囲気ふんいきを感じ取れた。


〝大丈夫な訳ないでしょ……すごく痛い。こんな体でも痛みは感じるのね……〟


 頭の中に聞こえる伊刈の声はさほど苦しそうに聞こえないが、その崩れた屍霊の顔のせいで本気でそう言っているのかどうかが分からない。

 だが、口から出る吐息は荒くなっている。余裕はなさそうだ。見た所、以前戦った時のような超速の再生能力も無いように感じる。


〝何、その目。普通の顔で出てきてほしいなら、一応元クラスメイトなんだから、もう少しくらいは私の元の顔を覚えててよね……。私の姿は陣野君の記憶から出てきてるんだから〟


「俺の記憶……?」


〝そう、その赤く光る石の力……だと思う。呼ばれたの。多分その石に。消える間際に私からもれでる瘴気の一部を吸収したその石に〟


 吸収した……まさかこの、あの時に黒くなった主石か。そうか、伊刈は俺の月紅石の能力で……。

 俺の能力はなんなんだ。どういう能力なんだ。何で目玉狩りが出てきたんだ。考えてもよく分からない。でも、使えたんだ、使えたんだ俺は。どうやって使えたかは全くと言っていいほど分からないが……。


 いや、それは今考えるべきことではない。まずは目の前の敵を何とかしなければ。

 両面鬼人はというと、二体ともが依然動きを止めてこちらを凝視している。腕も足も微妙に少しだけ振るえ、その様子はまるで襲いかかろうとしている意志を中にいる別の誰かが止めようとしているようにも見える。

 先程までおぞましく輝いていた紅い目は落ち着き鈍く黒くなっている、どう見ても様子がおかしい。また何か変態しようとしているのだろうか。


 しかし、伊刈に説明をするには相手が動きを止めている今がチャンスだ。


「それより、伊刈……話の続きなんだが、すごく言い辛いんだが……お前の両親、お前が自殺した後に……お前の事、本当の事を公表しようとして、あの腰にぶら下げてる頭の奴等に追い詰められて……」


〝………………――あの顔……知ってる。天正寺さんのお父さん……〟


 伊刈の目玉から放たれる視線が鬼人の腰にぶら下がった頭へと集中する。


「それで、復讐が怨念に変わってあんな姿に……目的の三人は殺したみたいなんだが、存在する意義を失って見境無く暴れまわってみたいるんだ」


〝私のせい……私のせいだよね……お父さん、お母さん……私が一人で抱え込まないで相談していたら……こんな事に絶対ならなかったのに……私も、お父さんもお母さんも……私が殺した人達も殺された人達も……〟


 たたずみ硬直する二体の鬼人を見て悲しそうな声になる伊刈。


「俺だって伊刈の事は無視してたんだ……誰が悪いなんて言える立場じゃない……でも、このままじゃ、死人がまだまだ増えちまう。何とか、何とか伊刈の方から両親に語りかける事は出来ないか?」


 しばしの沈黙。顔を上げて両親の成れの果てを見つめる伊刈。ただただお互いを見詰め合う屍霊となった親子。今この親子は何を思い見詰め合っているのだろうか……。


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