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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-36-3.なぜここに【陣野卓磨】

 両脇を抱えてくれている江藤と菱河を振りほどき、背中の痛みを我慢しながらよろけながらも必死に燕達の方へと駆け寄る。


「お、おい! どうした!?」

「ちょっと!」


 後ろの二人の声が耳に入るが、構っている場合ではなくなってしまった。市役所の入り口前広場に入る人間、見覚えのある人間なんていうものじゃない。燕だ。燕がいるのだ。


「つ、燕! お前、何でこんな所にいるんだよ! ボロボロじゃないか! 柏木さんも……」


「お、お兄ちゃん……!? お兄ちゃんこそ!」


 辛そうに項垂れていたが、声を掛けられ気がついた燕もこちらを見て驚いている。


「ヤスさんでしたか!? どうして燕が!」


「君は陣野……二人は赤マントに襲われていたんだ。ギリギリ助ける事ができたが、知り合いなのか?」


 ヤスが問いかけてきた。ヤスの表情は変わらず至って冷静のようである。

 だが、俺の方を見る目は何処か冷たい。


「俺の妹です……」


 赤マントだって……? 何で……なんで燕ばかり何度も狙われるんだ?

 しかし、無事でよかった……。


 そんな安堵をする俺を横目に、ヤスは不審な目つきで辺りを見回している。


「それよりこっちはどうなんだ。もう両面鬼人は滅したのか?」


「それ、それです、ヤスさん! まだ影姫と蓮美が市役所の中で戦ってるんです! すごく劣勢れっせいで……手助けに行って貰えませんか!? 俺じゃ何もする事が……!」


 しかし、ヤスは俺の声に対して首を縦には振ることはなかった。

 なぜ、なぜだ。影姫はともかく、蓮美が戦っていると言うのになぜだ?


「生憎だが俺は戦闘向きじゃない。斥候せっこうや逃げ専門だ。戦闘に加わったとしても二人の手助けになれるとは思えない。仮に俺が手を出して相手の目を惑わすにしても、屋内では狭すぎる」


「なら他の人は!? いっぱいいたじゃぁないですか! なんで皆姿が見えないんです!?」


「駄目だ。他の組員は両面鬼人がここから脱走しないように役所の敷地周りで結界を張っている。動く事が出来ん」


 いやに冷静なヤス。無表情な顔から放たれるその言葉の一つ一つからも、蓮美を心配する気配は微塵も感じられない。


「ぜ、全員ですか!? あんなにいたのに……そうだ、日和坂ひよりざかさんは!? 一緒にいたはずでしょう!」


「マサは赤マントの足止めをしている。――そもそも、組長の帰りを待たず両面鬼人を倒すと言い出したのは蓮美お嬢さんだ。我々組員の大半は、厄災級と思われる屍霊相手に組長無しで挑む等と無謀も無謀と反対したのだ」


「それでも……今、戦ってるなら助けるべきでしょう!?」


「確実性も無いその場凌ぎで思いつきの作戦に、命を賭ける義理も無い。政がどう考えているかは知らんが、我々が雇われているのは、あくまで組長であって蓮美お嬢さんではないからな」


「そんな……」


「それに、屍霊がターゲットを殺せば、余計な事さえしなければ暫くは大人しくなる可能性はあったんだ。今の状況になっているのは蓮美お嬢さんの判断ミスと言わざるを得ないな」


「だからって見殺しにっ!」


 この人の言っている事は間違っている。両面鬼人はターゲットを殺しても大人しくなるような奴じゃない。実際アイツはターゲットを殺した後でも市役所内で、手を出していない俺や江藤たちをも殺そうとしたのだ。


「今、組の奴等が蓮美お嬢さんのあにさんか組長に何とか連絡を試みている。連絡が取れるまで待つしか確実に近い方法はない」


 なんて奴等だ……日和坂とは大違いだ。

 組織の人間としては正解なのかもしれないけど、今まさに苦戦を強いられている仲間が近くにいるって言うのに……。


「てめぇこのハゲ! 結構なガタイしてる癖にその言い草は何だぁ!? 女の子が戦ってるんだぞ!? 戦えんなら助けてやれよ!」


「そうですよ! 男のクセに情けなくないんですか!?」


 そんな俺達の会話に江藤と菱河が割り込んできた。

 ヤスはいきなり割って入ってきた一般人を一瞥いちべつすると溜息を付いた。


「ならお前等が行けばいいだろう。お前等の様に金の為に危険を顧みず戦地に飛び込むような馬鹿な真似はしない。我々だって無駄死にはしたくないんだ。例えこの場でお嬢さんが亡くなろうとも、組長達が戻れば確実に近い方法が見出せるかもしれん。むしろ、その方が安全に戦え……」


 ヤスがそこまで言いかけた時、けたたましい音と共に市役所の入り口から矢が数本飛び出てきた。矢は運良く役所前広場にいた俺達に当たる事はなかったが、すぐ近くを飛びぬけて行き、役所の外塀へと次々と刺さっては黒く燃えて消えていった。

 そして間髪入れずに、続いて入り口から矢を刀で防ぎながら吹き飛ばされて来る影姫と蓮美の二人。そのまま矢の勢いで宙を飛ばされ、市役所敷地の囲い塀へと叩き付けられる。


「あ、あれ……影姉かげねぇ!? 何で影姉が!? お兄ちゃん、どうなってんの!?」


「どうなってるって……! 俺も……!」


 ガラガラと音を立てて破壊され崩れる市役所の出入り口から、ゆらりと姿を現す両面鬼人。

 その姿は再び一つに合体しており、弓をこちらへと向けている。塀に激突して地面に倒れた影姫と蓮美の二人も動く気配が無い。

 このままではここにいる全員が殺される……嫌だ……死にたくない……!

 どうすれば、マジでどうすりゃいいんだよ……っ。


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