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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-36-2.脱出【陣野卓磨】

 俺も覚悟を決める。

 二人が鬼人達の意識を奪い逃げながら戦う中、隙を伺う。弓の鬼人の方だ。蓮美が戦っている弓の鬼人の方が若干動きが遅い。それに壁際の空間がこちらの方が広い。役所出入口に向かうならこちら側からか。

 ゆっくりと確実にいくか、一気にいくか……。いや、考えている時間ももったいない。二人の動きを見ていると、もたもたしているわけにもいかない。一気に駆け抜けるしかない。


 隙と言っても、どれが隙か分からないしタイミングもつかめない。一か八かで……行くしかない。


 思い立った瞬間、意を決して走り出す。出入口を目指して。蓮美もそれに気がつき、弓の鬼人の気が俺の方に向かないように誘導しながら立ち回っている。いける、鬼人はこちらに背を向けていて気付いている気配は無い。


 ……抜けた……抜け……!


 そう思った瞬間、鈍い音と共に背中に激痛が走る。そして、足が地面から離れ、出口の方に勢いよく吹っ飛ばされた。

 吹っ飛ばされる直前、気が緩んだのだろうか。少し鬼人の方へと振り返ってしまった。そしてその時見えたのだ。弓の鬼人が、逃すかと言わんばかりの形相でこちらに目を向けているのが。


 背負っていた影姫の鞘のおかげで衝撃が吸収され背骨を折られると言うほどの衝撃ではなかったようだ。だが、それでも痛い。地面にしこたま全身を打ちつけ体の至る所に痛みが発生していた。

 何で俺はこんな目にあっているんだ。


「チッ! 大丈夫!? 私の攻撃無視しやがって……」


 蓮美が俺を守る盾の様に前に立ちふさがる。弓の鬼人を見ると、手すきの方の腕からドス黒い血がダラダラと垂れている。蓮美の攻撃を受けてまでこっちに打撃を打ち込んできたという事か。

 だがその傷も、黒い煙と共に瞬時に塞がっていった。


「だ、大丈夫……。影姫の鞘が衝撃吸収してくれたからある程度は……」


 本当に大丈夫かと問われたら大丈夫とは言えないかもしれない。それほどの衝撃だったのだ。


「じゃあさっさと行って! 私も影姫も長く持つとも思えないからっ。市役所の塀周りにそれなりの奴が何人かいるはずだから」


 そう言い再び弓の鬼人に飛び掛る蓮美。その姿を見ていると本当に自分が情けなくなってくる。

 あんな女の子が戦っているというのに、俺は一撃食らっただけでこんな所に膝をついて手を突いて俺は何をやってるんだ……。

 だが、凹んでも入られない。急いで救援を……!


「グウウウウウウウアアア!」


 何かを切り裂く音と鬼人の叫び声が耳に飛び込んできた。

 再び動き出した俺に気を取られた鬼人の一瞬を付いて、蓮美が弓の鬼人に一撃を入れたようだ。

 しかし、立ち上がろうとした時に背中に激痛が走り再び地面に手を突いてしまった為に、実際は何が起こったのか詳しくわからない。

 大丈夫だと口では言ったが、背中が痛くて動けない。だが、ここでずっとこうしている訳にもいかない。

 何とか這いずってでも応援を呼びに行かねば。


「おい! クソガキ、大丈夫か!?」


 出口付近で隠れながら見ていた江藤が声を掛けてきた。


「だ、大丈夫な訳無いでしょう……見て分からないんですか……あなた達こそ……」


「何だ!? 逃げんのか!? 女の子二人が戦ってるって言うのによ! 俺は逃げねぇぜ。最後まで見届けるんだ! 俺は戦えねぇが、メディアに携わる人間として見届ける義務がある!」


 江藤がそう言いながら駆け寄ってきた。俺は逃げているわけではない。むしろ、この人達が逃げるべきだ。命が惜しくは無いのかこの人達は。そんなにカメラで撮るのが大事かよ。


「違いますよ……助けを、呼びに行くんです……くっ……外に何人かいるはず……」


 痛い。背中だけじゃない。徐々に痛みが増してきた。今まで食らったことのない打撃による衝撃が全身に響いている。


「……菱河ひしかわ! 肩かせ! こいつ抱えて外出すぞ! 田野代は絵ぇ撮ってろよ! 意地でも逃げんな! テメェが逃げたら俺がぶっ飛ばすからな!」


 江藤がそう言うと、他の二人はコクリと返事をして、それぞれの行動に移る。

 江藤と菱河に両脇を抱えられ外に連れ出される。だが、見回すと我が目を疑った。見えるのは突入前に殺された人々の亡骸だけ。

 警官や警備員が逃げ出したというのならまだ分かるのだが、或谷組の組員すらいないのだ。

 まさか、皆逃げてしまったのだろうか。


「おい、助けって誰だ? あいつらか!?」


 あいつら? 江藤の視線の先、市役所の外入り口付近、そこには人が三人いた。そのうち二人は地面にへたり込んでいる。スキンヘッドの男と女の子が二人……。


「!?」


 その姿を見て再び目を疑った。そこにいたのは妹の燕であった。


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