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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-32-1.役所に広がる不穏な空気【陣野卓磨】

「まだ、この近辺には姿を現してないらしいわ。でも、時間の問題ね。目撃されたそれぞれの時間と移動速度からして、もうそろそろ姿を見せてもおかしくないわ」


「近辺の奴等を役所周りに集めた方がいいですかね?」


「いや、あんまり一箇所に集中させすぎるのも……敵は鬼人だけじゃないから」


 ヤスという人物の所から戻ってきた蓮美はすみが、日和坂ひよりざかと話している。

 影姫を見ると、なにやら神妙な面持おももちで辺りを見回している。


「いや、来ているな……近くだ」


 そうポツリと呟く影姫。


 その言葉が耳に入り辺りを見回すが、見えるのは警官や警備員、或谷組と思われるスーツの男ばかり。

 それ以外は普通の一般市民で、それらしい影は俺が見る限りでは見当たらない。

 頼むから不意打ちなんてやめてくれよ。いきなりこの車の上にズゴーンと落ちてきたり……いや、そういう余計な事は考えないようにしよう……。


「影姫、相手の気配が分かるの? だったら、詳しい位置どの辺りか分かる?」


「いや、詳細な場所までは分からんが……強めの瘴気なら感じ取れない事も無い。二箇所感じるな。あっちと……」


 蓮美の問いに影姫がそこまで答えかけた時だった。役所の方から、なにやらざわざわとどよめきが聞こえてきた。


「おおっと、おいでなすった様ですよ、お嬢」


 日和坂が、どよめきのした方を見ながらポキポキと拳を鳴らしている。

 その方向を見ると、そこには或谷邸の地下で見た屍霊の姿がたたずんでいた。

 しかも、あの時見た姿よりも巨大化しているように見える。四本ある手の一つには、あの時持っていなかったモノも持っていた。生首だ。人間の生首を持っているのだ。最早血の気のない男性の……生首。

 そんな両面鬼人はというと、息をする度に肩を上下はさせているものの、ただ宙を見つめて動く気配が無い。

 だが、そんな両面鬼人の様子は、辺りに気を張り巡らせ何かを探しているかのようにも感じられた。


「ご丁寧に、殺したターゲットの首を持ち歩いてんのね。よほどの怨みもってんのね」


 蓮美が両面鬼人を見て若干苦笑している。

 殺したターゲットというと、市議会議員の飯塚の生首か。遠目で見る生首は、普段絶対に見る事がないモノであるせいか、作り物の様に見えてしまった。例え本物であると知ってしまって、不思議と気持ちの悪い気分にはならなかった。


「お嬢、やりますか」


「いや、今は人が多いから……動く気配ないし……でも、サッと出れるように準備だけは」


「しかし、待っててもあの野次馬どもは散りませんぜ。あっしの予想じゃ、動いた時があの野次馬共の死ですね」


 日和坂の言う通りだ。

 野次馬達はそのおぞましい化物を前に、動かないのを良い事に近寄りスマホで撮影したりなんかしている。

 恐らく彼等も、鬼人が手に持つ生首など精巧に作られた偽者だと思っているのだろう。


「どうしよ……まさか、真昼間からあんな人がいる中に堂々と現れるとは思ってなかったから……ちょっと想定外だったわ」


 向こうで二人が話していると、影姫がそっとこちらに近づいてきた。


「卓磨、もう一つの屍霊の気配は市駅の方角から感じる。感じる大きさからして十中八九赤マントだ。私達はそっちに行くぞ」


「え? マジかよ。こんな明るいのに……」


「屍霊に時間など関係ない。日に当たれば灰になるわけでもあるまいし」


「だって、目玉狩りの時も赤いチャンチャンコの時も遅い時間だったじゃん。てっきり強い日差しにでも当たったら吸血鬼みたいにダメージ食らうモンなのかと」


「吸血鬼が強い日差しに弱いなど人が抱いた妄想だ。それに屍霊は屍霊、吸血鬼ではない」


 まさかの同時出現であった。一番回避したい状況、それが来てしまったのだ。

 別々に出てくれたのならば、一体一体集中砲火をかければ、危険も少なく対処できるんじゃないかと薄々は思っていたのだが、甘かったようだ。向こうはこちらの都合など汲んでくれない。


「行くぞ」


 そう言って影姫は鞘の入った袋を肩にかけ、俺の腕を掴み走り出そうとする。


「おい!」


 それに気がついた日和坂が声を上げて俺達を呼び止めた。蓮美は両面鬼人の方を見て考え込んでいる。俺達が立ち止まり振り替えると、日和坂がこちらに歩み寄ってくる。

 その表情は硬く強張り、普段の日和坂とは一つ雰囲気ふんいきが違っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんな面白い作品を辞めるなんでとんでもない...! まぁなろうの仕様的にレビューとランクインしなかったら作品どんな面白くても埋める時は...
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