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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-28-4.日和坂の頼み【陣野卓磨】

 目的の場所に到着する。俺達の乗る車は市役所の駐車場には入らず、近くの路上脇に停車している。


 市役所の周りの様子は普段とは違う雰囲気ふんいきに包まれている。

 もちろん俺は門宮市役所など来るのは初めてなのだが、普段と違うということだけは通行人の反応や人々の様相を見ていても分かる。

 警備員がやたらと多いのだ。警備員だけじゃない。制服を見ると警察官も多数いる。近くにに門宮警察署があるのはわかるが、それにしても多すぎる。


「警備も警官も多いね。天正寺のジジイよっぽどビビッてんのね。口では幽霊なんて信じない見たいな事言ってた癖に。上っ面だけの強情ジジイが」


 蓮美がシートベルトを外しながらそう言った。なるほど、天正寺議員が警備や警察に要請したのか。

 市役所周りは物々しい雰囲気ふんいきに包まれており、一般の利用者も何事かと辺りを見回す者も少なくない。中にはその様子に何か事件かとカメラやスマホを構えている者までいる。


 その中でも一際ひときわ目立つのがいる。男二人女一人の三人組。そのうちハンチング帽をかぶった男は本格的なビデオカメラを構えており、他の二人がそれに向かって何か喋っている。

 もう一人の男は暴力的なようで、一緒にいる女を蹴り飛ばしていた。テレビの撮影か何かだろうか。こんな時に撮影とはタイミングが悪い。屍霊が現れて撮影でもされようものならどうなってしまうのか……。


「見た感じだとまだ両面鬼人は市役所に到着してないみたいですね」


 日和坂も車内から外の様子を伺いながらシートベルトを外している。確かに、物々しい警備以外は至って日常の風景であると言えばそうである。これから屍霊が現れるかもしれないという前兆などは全く無い。


「ひよひよ、私はヤスと連絡取ってくるからとりあえず三人でここで待っててくれる?」


「へい。お気をつけて」


 蓮美はその返事を聞くと車から出て勢いよくドアを閉めると、市役所の方に走っていった。


 それから何分経っただろうか。蓮美が出て行ってから静まり返る車内。沈黙を破ったのは日和坂であった。


「なぁ、影姫よ」


「……なんだ」


 少し間を空けてから、影姫の無愛想な返事。


「昔、お前が俺等の組とひと悶着あったのはもちろん俺も知ってるけどよ、お嬢はその事を知らねぇんだ」


「だからどうした」


 お互い視線を合わせることは無い。お互いがそれぞれの横にある窓の外を眺めて逆を向いている。だが、互いに牽制けんせいし合う様なピリピリとした空気が流れているのは確かだ。

 俺に入り込む余地は無い。ただその会話を耳に入れることしか出来ない。


「お嬢に、もうちっとでもいいからよ、優しくしてやってくれねぇかなぁ。せめて友達感覚くらいでも良いからよ。ああ見えて、結構落ち込んでるんだぜ。お前と契約できなかった事」


「………………」


 影姫の返事は無い。その様子から何を考えているのかは全く読み取れないが、聞いているのは聞いているようだ。


「前も言ったけどよ、お嬢はあの年までお前と契約する為だけに訓練を受けて育てられてきたんだ」


「………………」


「訓練中、時折俺にも言ってきたよ『影姫って名前からして女の人だよね? 友達になってくれるかな?』って笑いながらよ。俺はその問いに関して、同意して頷くしか出来なかったよ。……友達作って遊ぶ時間なんて許されねぇ、厳しい訓練の中で肉体も精神も痛めて傷つけて、それでも、それだけを心の支えにして今までやってきたんだ。俺はそれを思い出すと胸がキリキリ痛むんだわ」


 そんな中、俺が影姫を横取りしたみたいな形になってしまったのか。俺が進んで影姫と共にいる事になった訳ではないのだが、申し訳ない気分になる。


「それは私には関係ないな。貴様等の都合だろう。仮に卓磨が私の契約者になっていなかったとしても、他に素質のある人間が出てきていたのならば、そちらに契約が行っていたかも知れんしな。選ぶのは私の無意識だ。そっちが『この人が良い』と主張した所で誰に決まるか分からん」


「それは分かってんだけどよ……納得のいく形で結果が決まるってのもあるじゃねぇか。今回のは急で、しかも、アレだろ」


 アレ。勿論分かる。俺の事だろう。

 影姫に対して何の手助けも出来ない俺が契約者となって納得が行かないと言いたいのだろう。


「最近な、お嬢が高等部上がってから、やっと組長に仕事も任されるようになったんだ。小さな仕事だけどよ。……今回もよ、なんだかんだ理由は付けてるが、お嬢はお前と一緒に仕事をしたいんだよ。長年お嬢を見てきた俺には分かるんだよ。表向きは元気に振舞ふるまってはいるが、目の奥が笑ってねぇんだよなぁ……」


 やはり俺が先程感じたのは間違いではなかったようだった。俺は蓮美に相当怨まれているかもしれない。


「知るか。今回は貴様等が両面鬼人、私達は赤マント。別々に行動だ。お互い助け合うなんて事はない」


「そうかぁ。そりゃ残念だな……」


 日和坂が残念そうに頬杖を付き外を見る。


 外はまだ、お昼の時間を過ぎたばかりで明るく日が照っている。

 今まで出会った屍霊は夜ばかりだったので、こんな明るいうちに出るなど、俺には考えられなかった。

 今まで蓮美を学校で見かけなかったのも、日中仕事で休んでいた日もあったからなのだろうか。そう考えると、普通の学生生活を送る事の出来ない蓮美が可哀想に思えてきた。


助けて

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