3-28-3.それぞれの気持ち【陣野卓磨】
それからしばらく皆無言で、車のエンジン音だけが耳に入ってくる。
影姫も蓮美も、無表情に窓から外を眺めて考えに耽っている様だ。
皆何を考えているんだろうか。俺には見当も付かない。
車に乗っている俺以外の三人は、俺には想像の付かない人生を送ってきているのだろう。俺はここにいてもいい人間なのだろうか。そんな考えさえ浮かんできてしまう。影姫のセットで連れてこられてはいるが、今回は何の力にもなれそうにないというのもある。
「なぁ、蓮美」
「何?」
「赤マントの元になった怨霊の生前の……名前とかそう言うの分からないのか? そっちの情報網でさ」
俺は俺の持っている力で少しでも手助けするしかない。そう思い俺は思い立った質問をぶつけてみる。
そんな蓮美は俺の質問に訝しげな表情を浮かべつつも、少し考える。
「元って、今の奴? 大元の根本的な奴? そんなの聞いてどうすんの?」
「いや、別にどうって分けも無いんだけど」
「生憎。私達はそう言う生前の特定情報を掴むような能力持ってる奴いないんでね。両面鬼人みたいに最近死んだ人物だったら特定も出来るかもしれないけど、ずっと長年根付いていた地縛霊だなんだのが暴れだしたってなったら、さすがに分からないよ」
「そっか……」
やはり、今回俺は少しの力にもなれそうになさそうだ。役立たずって訳か。
「人に害有るのや無いのも含めて、目立つ悪霊は少ないって言っても、それでも把握できる量じゃないのは確かだし。私達は出てきた屍霊や悪霊を滅すか封印するだけ。そう、それだけしか出来ない……」
「……そうか、ありがとう」
俺の返事を聞いて、蓮美は質問の意図も掴めずに不思議そうな顔をしている。
今まで運が良かっただけなんだ。偶然、屍霊に繋がる人に出会って、屍霊に繋がる物を手に入れて。その記憶を見る事が出来て。
正体すら分からないんじゃ何もしようが無い。黙って逃げながら見守ってる事しか出来ないのか……。
「そんなの聞いてどうすんの?」
「い、いや。どうするって事は無いんだけど……」
俺が屍霊となった人達の記憶を物から読み取れると言う事を蓮美に伝えておいた方がいいのだろうか。伝えたら組員を使って情報集めに奔走してくれるのだろうか。
そんな希望もほんの少しは沸いたが、爺さんと燕の事を思い出すとちょっとそれは考えられないという結論に至った。
あまり俺の使えるこの力を人達に言って、今後さらなる厄介ごとに巻き込まれるのも嫌だ。ここは黙っておく事にした。
「ふーん……何か隠してます? 陣野先輩っ」
急に笑顔になったかと言うと、人差し指で頬をつつかれた。爪が刺さって微妙に痛い。
「か、隠してない。隠してないから。第一これから協力して戦おうって言う相手に対して隠し事したって得なんて無いだろ……」
言っても得は無いのだが……。
「……それならよござんすけどね」
そんな俺の返事に笑顔はすっと消え、何か腑に落ちないと言う顔をしながら座り直す蓮美。
これでいいんだろうか。俺の選択肢は間違っていないんだろうか。今の状況、今後の事、何を考えても不安だけが残ってしまう。




