3-27-3.丸グラサン【陣野卓磨】
「そういえば話は変わるが、今日は帰ったらどうするんだ。赤マントの情報は全然入ってこないし、もう一体の奴もどうなってるかさっぱりだ。赤マントの件で忙しそうだから七瀬刑事にも連絡取りづらいしなぁ」
「両面鬼人は或谷組の奴等が何とかするだろう。奴等にも面子があるからな……自分等の尻拭い位は自分等でするだろう。だが、それならそれで赤マントはこちらで引き受けないといけない。しかし、奴は神出鬼没だ。遭遇するまで私達も徘徊するしかない。仮に私達が遭遇できなくとも、誰かが襲われていたらそれで察知する事も出来るかもしれんし」
「え、俺も?」
赤マントは女児ばかり狙うロリコン野郎だと聞いている。
実際は金田みたいな高校生も被害に合っているが、男である俺が徘徊した所で遭遇するチャンスは巡ってこないのではないだろうか。
それよりなにより、俺自身怖くて会いたくないという気持ちもある。せめて俺も、月紅石が使えるようになっていれば、この気持ちも変わるのだろうが。
「当たり前だろう、思い出してみろ。赤いチャンチャンコの時、不服ではあるが私は人間として認識されなかったのだ。私一人では力が存分に出せない事はおろか、遭遇する事もままならないかもしれない」
「そういえばそうだったな」
「千太郎の話だと、これまでの赤マントとは違う部分があるというから―――今の所、被害者は女性だけのようだが男でも襲ってくる可能性もある。だから、『女である人外』と『男である人間』が二人だったら丁度いいだろう? 足して二で割れば『女の人間』だ」
「どういう理屈だよ……」
そう言う影姫は自分で言っていて何か不満気ではあった。
赤いチャンチャンコに人間扱いされなかったのがよほど不満だったらしい。俺からしたら十分人間ではないのだが、本人は気にしているようだ。
影姫はムスッとした顔で振り返ると、そそくさと校舎を出て行ってしまった。
しかし、今回は赤マントの怪人となった人物の生前の記憶が何一つ掴めていない。それどころか、赤マントになったのが誰であるのかすらわからないのだ。この状況で、今までの様にうまくいくのだろうか……。
………………。
昇降口を出て校門へ近づくと、見知った人物が校門脇に立ち、出て行く生徒達を物色していた。
日和坂だ。目を向けられた生徒達は、関わりたくないと言わんばかりに日和坂から距離をとって校門を抜けていく。
こんな所で何をしているんだ? 蓮美を迎えに来たのだろうか。
そう思いながら俺と影姫が校門へ近づくと、日和坂もこちらに気がつき近づいてきた。
「よぉ」
見知った知人のように気さくに声を掛けてきた。影姫を見ると、声が自分に向けてかけられているのに気付いて足は止めているものの、眉間にしわを寄せて嫌そうな顔をしている。
「あんだよ、返事くらいしろよな。二人揃って無愛想かよ。折角、人が怪しまれない様に明るく声をかけてやってるってのによ」
無言で視線を向ける俺達に悪態を付く。
そうは言うものの、日和坂の白スーツに丸サングラスと言うその風貌だけでも十分怪しく、普通の生徒なら近寄りたくない存在である。俺としても、周りにこういう人物と知り合いだとあまり思われたくない。
「すみません……」
「なんだ。何か用か丸グラサン」
影姫が日和坂に視線も向けずに返事をする。丸グラサンとは変なあだ名がついたものだ。
「ま、丸グラサンて……まぁいいわ。お嬢からの呼び出しだ。二人とも付いてきてもらうぞ。嫌とは言わせねぇからな」
「い・や・だ」
影姫は間髪入れずにそう言うと、戸惑う俺を尻目に校門を出て行ってしまった。
俺はどうしたらいいのだろうか。




