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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-27-1.間違えた【陣野卓磨】

「はああぁぁ……」


 ポケットからスマホを取り出し、それを見ると思わず溜息が出る。何度見ても同じだ。

 黒い、黒いぞ。表を見ても裏を見ても画面を覗いても真っ黒だ。俺がこのスマホに光をともす事は出来ない。例え充電用のケーブルを持っていたとしても出来ないのだ。


「どうしたの? そんなおっきな溜息ついて」


「ちょっとな……」


 隣で霙月みつきが、大きな溜息を付く俺を見てきょとんとしている。そして、その視線は俺からスマホに移り、何かに気がついたように俺の方に視線を再び移した。


「あれ? スマホ落としたの? 画面にすごいヒビが入ってるけど……」


 霙月が隣の席から、俺の手に収まるスマホを見て覗き込んできた。

 落とした訳ではないのだが、スマホの画面はつかない。電源ボタンを押そうが何をしようがつかない。どこを触ろうが、どう角度を変えようが、握り締めようがその画面は真っ暗である。電池が切れている訳ではない。文字通りつかないのだ。壊れている。


「それは溜息も出るよね。……機種ももう古いしもう買い換えたら?」


 無言で霙月の方を見る俺を見て、悲しそうな顔をしながら何かを察したようにそう提案してくる。

 だが、それは間違いなんだよ霙月。これはな……。


「え? ああ……これは……まぁ、そう言うんじゃないんだけどな。なんと言ったらいいのか。俺のスマホはまだ使えるんだ」


「俺の? これは?」


 俺が手に持つスマホを指差す霙月からは同情の眼差しが感じられる。訂正するのも面倒だ。


 朝、家を出る前の事だ。前日の疲れもあり寝ぼけていたようだ。自室のローテーブルの上においてあった自分のスマホを制服のポケットに突っ込んだつもりだったのだが、放置していた伊刈のスマホを持ってきてしまったのだ。裏向けて置いていたのが仇となってしまった。


 学校についてから気がついたので、自分のスマホを取りに帰るわけにも行かずに、そのまま一時限目も終わり今に至っている。

 授業中にスマホを見る事はないが、休み時間は少し暇である。スマホがあれば隣のクラスにいる友惟ともただに会いに行く事なく会話も出来る。文字による会話だが。


「卓磨はおっちょこちょいだからな。家でもよくミスをする」


「そうなの?」


「そうだぞ。昨日なんてな……」


「えー……」


 いつの間にか霙月の後ろに立っていた影姫が霙月に語りかけていた。

 最近、影姫も敬語が面倒になってきたのか、クラスや部活では普段通りの口調で皆と話をしている。

 最初は皆、「えっ」と言う反応を示してはいたが、クラスに慣れてきたのだろうと、深く理由を聞かれる事も無く今ではこれが普通になっている。七瀬刑事にもぎこちないと言われたので、考え方を改めて猫をかぶるのをやめたのかもしれない。

 ただ、先輩方々にまでたまにタメ口を聞くのは勘弁して欲しい。近くにいるとヒヤッとする。


 今の二人の会話では、霙月は恐らく俺がスマホを落としてヒビだらけになったと思っているようだが、影姫は別のスマホを間違えて持って来たと言いたかったのだろうが、言葉足らずで通じていない。

 説明と言うのは大事だ。時には相手に大きな勘違いをさせてしまう事もある。だが、今回は面倒なので俺もこれ以上は何も言うまい。別にどちらでもいいのだが、俺が今日家に帰るまでスマホを弄れない事に変わりは無い。


卓磨たっくん、いくらなんでも影姫さんの裸を覗いちゃダメだよ」


 俺が二人の会話を余所に一人考えに深けっていると、霙月が顔を赤くしてこちらを見ていた。

 その口調は、少し怒った様な風であり、俺の方を厳しい目線で突き刺してくる。


「へ?」


 話を聞いていなかった俺は一瞬何の事かわからなかった。見ると影姫の姿は既に霙月の横から消えている。

 猫背になり伏せがちだった体を起こして教室を見回すと、教室の入り口の半開きのドアから影姫がニヤニヤとこちらを覗いていた。


 あのヤロウ……。見るには見たがあれは影姫が……!


「んなことする訳ねーだろ!!!あれはだな……!」


 説明しようとするも、どういっていいのか分からず言葉に詰まってしまう。そんな俺を見る霙月の冷たい視線。顔は赤く熱を持っているようなのに、視線だけは冷たい。


 そして、その話が聞こえていたのか、二階堂と三島の鋭い視線も俺に突き刺さっていた。


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