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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-26-2.霧雨学園へ【或谷蓮美】

 車の外に見える景色には、何度か天正寺憲明の顔が映りこんだ。

 街中に張られたポスターには、作り笑顔でにやける天正寺と、それらしいキャッチフレーズが掲げられている。支援者達はあいつの本性など微塵も知らないし、知ろうとしないのだろう。ただただ妄信的にアイツの言葉を信じて支援し続けるのだろう。


「あー、もう、何であんな奴を助けなきゃいけないのよ! さっさと死ねばいいのに!」


 思わず本音が口から洩れるしまう。


「お嬢、まぁ、あっしもそう思いやすが、やるだけの事はやっておかないと……それに、何もしないで然るべき所にバレでもしたら組長にどやされますよ」


「わかってるわよ……よりによって親父のいない時に厄災級とか……こんな時に兄貴はどこ行ったのよ……肝心な時にいつもいないんだから」


「ホントに何処へ行ったんでしょうね。あっしも地下の封印部屋の前で会ったのが最後ですね……若もですが、坂爪も見てないような」


「坂爪は兄貴の付人みたいなもんだしね。兄貴がいなくなりゃ、当然一緒にいなくなるでしょ」


「アイツもちょっと、取っ付きにくい所がありやすからねぇ。何でよりにもよってあんな無愛想な奴があんな能力持ってんだか……」


「ま、確かに兄貴に許可取らないと坂爪使えないのは面倒臭いよねぇ」


 兄貴が何をしていたのかは私には検討もつかない。兄貴の行動はいつも不可解で、何かを企んでいるのかと思えば、別にそうでないのかもしれないと思う時もある。そんな性格だから影姫のパートナーの役割が私に廻ってきてしまった訳なのだが。


 そして、天正寺宅で話をしていて一つ思い出した事があった。


 伊刈早苗。


 この名前には聞き覚えがあった。私は昔この人と話をした事がある。


 私が中等部の一年だった頃だ。同級生が皆で部活を楽しそうにしているのに、私はおっさん達相手に家で一人特訓。私は一体何をやっているんだろう、何をやらされているんだろうと、学園近くの公園のベンチで一人泣いていた時だった。


 そんな私にハンカチを差し出し優しく声を掛けてくれた女生徒。それが伊刈早苗だった。

 相手が私服だった為、姿を見ても同じ学校か先輩か同級生かも判らなかった、一般人では訳の分からないであろう私の話や愚痴を快く聞いてくれた。


 それから同じ学園の中等部である事が分かり、私が中等部の三年に進級するまでは連絡を取って何度か会う事もあった。その度に私は彼女に相談等をしていた。答えが貰えるような相談ではなかったが、愚痴を聞いてもらえるだけでも気持ちが楽になった。


 だが、私が三年になったとたんピタリと会わなくなってしまった。私が中等部、彼女が高等部で同じ学園内にいたはずなのにだ。

 その後、三ヵ月程会う事がなく、私は私の話が妄想話か何かだと思われていい加減呆れられたかと思い、元々SNSなど使わなかった私は、スマホの登録から彼女を消し、忘れる事にした。


 なるほどな。あの時、天正寺の娘に虐められていたのか。そんな、追い詰められていた時に私は彼女の登録を消してしまったのか。

 今思えば、学年は違えど、彼女が私に出来た只一人の友達だったのかもしれない。そんな身近にいた人を助ける事が出来なかったと思うと、悔しさがこみ上げてくる。しかも屍霊になど成り果てていたなど尚更だ。


 近くにいるのだから、SNSで連絡が取れないのならば直接会いに行けばよかったのだ。

 会って私の事をどう思っているのか話を聞けば、私の誤解は解けただろう。

 会って彼女の話を聞けば、私なら虐めグループなど二度と立ち上がれないくらいに殴り飛ばしてやったのに。

 きっと彼女は、後輩である私に心配をかけまいと連絡を取らなかったのだろう。そう言う人だ。

 彼女からは恩しか受けていない。恩返しをする間もなくそう言う事態になるなんて思いもしなかった。もう済んでしまった事だし、後悔しても仕方が無い事なのだが。


 そして、両面鬼人は彼女の両親だ。滅すだけじゃない。なんとか、どうにかして助けてあげたい。

 伊刈先輩が死んで、屍霊になって滅されて、両親も亡くなって今屍霊と成り果てているというのならば、恩を返すならばここしかないだろう。

 でも、私に屍霊をコロス力はあっても、浄化する力など無い……。


「お嬢、つきやしたぜ」


 車が霧雨学園の校門から少し離れた場所に停車する。車の時計を見ると、まだ授業が終わる時間ではない。今日は午前で授業が終わりのはず。今日、私は欠席しているので学園内に入るのも気が引ける。


「んー、ここで待ってよ。二人が出てきたら教えてよ」


「へい、わかりやした」


 そして私は少し仮眠をとることにした。

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