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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-26-1.瘴痕【或谷蓮美】

「お嬢、門宮市役所に向かわなくていいんですかい」


「いや、念には念を。だから、手伝ってもらおうと思って。市役所の方は何人か先に向かわせてるし」


 今、私は車で天正寺宅から、門宮市役所とは逆方向の霧雨学園へと向かっている。陣野と影姫を迎えに行く為だ。赤マントの目撃情報もあるし、万が一に備えて少しでも戦力がほしい所なのだ。


「陣野のガキと影姫ですか……必要ですかね」


「だーから、念には念をって言ってんでしょ。一体なら私等でも何とかなるよそりゃ。でも、赤マントもあの近辺に出没してるって情報入ってきてんじゃん? 今は親父がうちの石使いほとんど持って行ってるし、兄貴もどこ行ったか分からない上に連絡取れないし、私達だけでもし二体相手とかになったら手に負えないじゃん」


「あっしも地下では不覚を取りましたが、あっしとヤスが入れば厄災級といえども一体くらいは……」


「言ったでしょ、それがアンタの悪い所だって。敵を見くびっちゃダメ。私だってひよひよだってヤスだって、厄災級とまともに戦った事は一度も無いんだから。万全に万全を尽くしてないとダメよ」


「へい……それと……話は変わるんですが、瘴痕の事なんですが、あっしはさっきが初耳でして、その……どういう事に」


 瘴痕とは屍霊になっていない状態の怨霊に刻まれた屍霊特有の傷痕見たいなものだ。それが付いている怨霊は屍霊になりやすいと言われている。ただ、刻まれる理由や原因は分かっていない。


 日和坂の疑問も分からないでもない。私も坂爪から直接報告を受けた訳じゃない。坂爪がそう言う話を兄貴にしている所にたまたま出くわしたのだ。二人は私の存在に気がつくとそそくさとその場所を後にしてしまったが。


「瘴痕ね……付いてたらしいの。両面鬼人になった怨霊に」


「らしいって事はお嬢も……」


「うん、私は偶然聞いただけだし、怨霊の時の状態を見た訳でもないからなんとも言えないけど……でも、私は思うんだよ。ひよひよ、地下で兄貴に会ったって言ってたじゃん?」


「へい、陣野を連れて行った時にバッタリと出くわしちまって……あのきゃ焦りましたよ。まさか若が地下にいるなんて思いもしなかったですから。全く勘弁してほしいですよ。肝冷やしました」


 日和坂の声が心なし小さくなる。それは当然だろう。部外者立ち入り厳禁の地下に部外者を連れて行った上に、当主の息子に見つかったのだから。


「それよ。兄貴があんな薄汚い地下に行くなんてちょっと考えにくいのよね」


「お嬢」


「ん?」


「気持ちも分からなく無いですが、若を疑うのは……確かに不可解な行動を取る時もありやすが、あの若さでの功績から言ったらですね」


「分かってるよ。ちょっと、ふと思っただけだから」


 そう言い車の外をボーっと眺める。確かに今まで屍霊を何匹消滅させてきた兄貴を疑うのはよくないだろう。

 でも、聞いた地下の話や瘴痕の報告の場面を思い出すと、何とも言えない不安が胸にこみ上げてくるのだ。

 兄は昔から、長男である自分が影姫の契約者候補として選ばれなかった事に憤りを感じていたのは知っている。それでよからぬ研究に手を貸しているという噂も聞いている。私としては家族であるし信じたいという部分もあるのだが、不安も多いのだ。


 親父はなぜ兄や姉でなく、私を影姫の契約者候補として育てたんだろうか。


 でも、今は親父や兄貴の事ばかり考えているわけにもいかない。両面鬼人を何とかしなければならないからだ。


 両面鬼人、赤マント、兄貴の不可解な行動、陣野と影姫。気になることが山積みである。私はどうしたらいいんだろう……。


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