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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-24-2.醜い心【或谷蓮美】

「どうやって! どうやって化物から身を守れと言うんだ!?」


「先生は化物など信じてらっしゃらないのでしょう?」


「実際に出ているんだ!! 宮崎も飯塚の秘書も、私にそんな下らん嘘をつく奴等じゃない!! 現に飯塚は殺されていと言っているんだ!」


「なら、話していただけますか。の事を。私達とて、先生の都合の良い部分だけを信じて動くわけにも行きませんので」


 そういい視線を向けると、歯を食いしばり悔しそうに頷く姿が見えた。

 自分の命が危険に晒されていると言う事実を思い出し、今度こそやっと観念したか。

 私と日和坂は席に座り直し、耳を傾ける。


「さっき言っていた化物の声だ……宮崎は、その、自殺した生徒の両親に声がそっくりだったとも言っていた……さっきお前も言っていた伊刈とかいう奴の声だ」


「なぜ、そのご両親の声を覚えるほどに知っているのですか? 伊刈の両親の声が耳にこびり付く様な事をしたとしか」


「それは……」


「それは、虐めの真相を公表しようとした御両親を貴方がたが……」


「ち、違う!! ちょっと脅しただけだと聞いている!!」


「聞いている?」


「そうだ。最初は金を積めば何とかなると思っていた! 提示した金額で満足できないなら納得できる金額を言わせろと……! だが、あの石頭ども、金も受け取らずに、会見を開いて娘の自殺の真相を公表するとかぬかしおったのだ! 政治家の娘が人一人を自殺に追い込んだなんて話が出てくれば、腐れマスコミどもの恰好かっこうの的だろう! だから同じ会派の宮崎と飯塚に手を回させて……すでに死んでいなくなった貧乏人の小娘ガキの為に、ウチの娘の未来が閉ざされて良い訳が無いだろう!! お前の家も下民どもに疎まれる位の金があるんだろう!? なら分かるだろう!? 自分が自分より劣る下郎どもに足を引っ張られて引き摺り下ろされると言う事が、いかに屈辱的であり、耐え難い苦痛であるかという事が!」


 相当焦っているのか、今までとは打って変わってよく喋る。

 私はなぜ、こんな人物の命を守ろうとしているのだろうか。

 被害者の為? 組の面目の為?

 自分でもよく分からなくなってきた。部下の失態の尻拭いと言うのもあるが、天正寺は死んだ方がいいんじゃないかと思えてきた。守る必要性が、全くと言っていいほど感じられない。この世界に天正寺明憲と言う存在の必要性が全く感じられない。


「あいつ等が勝手に自殺したんだよ! 逆恨みもいいとこだ! 何が万が一の事態に備えてだ! 嘘を書き連ねた遺書など残しやがって! 素直に金を受け取って口をつぐんでいれば、借金も返済して今頃何の不自由も無く生活できていただろうに! 私だっていい迷惑なんだよ!」


「本当に勝手に、ですか?」


「この期に及んで嘘をつくわけ無いだろう!」


 嘘、に聞こえる。捕らえて来た時に坂爪から報告を受けていた、捕らえてきた霊体に残されていた瘴痕。今の天正寺の言葉が真実ならば、それの説明が付かない。だが、これ以上それに関して問い詰めても無駄か。


「でも、………………間接的には殺した事になりますよね」


「馬鹿を言え!! 私は関係ない! 仮に責任があるとしたら宮崎と飯塚だ! あいつらのやり方がまずかったんだよ!! 私は『なんとかしろ』と言っただけだ! 自殺に追い込めなど一言もいっとらん!」


「まぁ、いいでしょう。ですが、相手の怨みも相当です。正直、我々が先生の命を守りきれる保障もありません」


「なんだと!? どういうことだ! ここまで喋らせておきながら保障は無いだと!? 百パーセント守りきれないなら何をしに来たって言うんだ!?」


 机に勢いよく手を突き、血相を変えて言い寄る天正寺。先程から顔が青くなったり赤くなったり忙しい男だ。

 他人を死に追い込んでおきながら、自分はよほどに死にたくないと見える。もちろん、人間である以上、誰しも死にたくないと言う気持ちはあるだろう。だが、間接的にも人を殺した人間が命を守ってくれと助けを請う姿が、これほどにまでに滑稽で醜い物か。

 人が死ぬ間際に助けを請う姿は、今までに何度も見てきたが、こいつは特に醜悪である。


「出来る限りの事はします。それでも六割七割がいい所でしょう」


「人一人も守りきる自信が無いのか。……役立たずが……いい、こちらでも警察と護衛をつける……私のスケジュールは教えてやるが、お前等が守りきれないというのなら私も全てに於いて協力するつもりも無い。お前らの好きにしろ」


 人が助けてやると言うのにこの言い草か。正直、警察などの余計な手は入れてほしくない。死人が増えるだけだ。だが、言っても聞かないだろう。


「今日はご自宅で静かに、という訳にはいきませんか」


「いくわけが無いだろう。午後から大事な議会がある。欠席するわけにはいかん」


「飯塚議員がお亡くなりになったのに通常通り議会は開催されるんですか?」


「この国はそういう国なんだよ……たかが赤の他人一人の命で政治家が動くと思うなよ……一人いなくなれば頭の中は補選の事だけだ……」


 最後の天正寺の言葉は消え入りそうだった。

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