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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-24-1.誰を助けるべきなのか【或谷蓮美】

「宮崎が今、言っていたんだ。途切れ途切れで聞き取りにくかったが、化物が『娘の恨み晴らさで置くべきか』と言っていたと。空耳じゃないかと言ったんだが、間違いないと」


 天正寺の言葉が少しであるが震えている。娘の恨み……陣野から聞いた、虐めで自殺した伊刈早苗の事か。やはり、天正寺は娘の罪を隠すために何かしたのか。


「少し前だ、お前らも知っているかは分からんが霧雨学園で学生の飛び降り自殺があっただろう」


「ええ、存じております」


 事件当時は、私は中等部だったので詳しい経緯は知らないが、ある程度は陣野から聞いている。


「あの自殺した生徒を、ウチの娘が虐めていたとよからぬ噂が流れ始めたんだ。それで虐めを苦にして自殺したとか言うくだらん言いがかりを一部の人間からつけられて……」


「私も現在は霧雨学園に在籍しておりますし、その件に関しての話は色々と多方面から伺っております。実際、天正寺先生のご息女が虐めの主犯格だったと、件をよく知る者から伺っておりますが」


 目玉狩りを撃退した陣野の言っていた事だ。陣野も関係者から詳しい話を聞いているだろうし、伊刈早苗の元クラスメイトだ。陣野の話は信用に値すると見ていい。まず間違いないだろう。


「馬鹿を言え!! ウチの娘がそんな事をするはずが無いだろう!! うちは勉学だけじゃない、モラルや品性など社会通念上精神的に大事な事に関してもきっちりと教え込んでいる! それに、確かに自殺した生徒の親には根も葉もない余計な噂は信じるなと念押しをしておけと二人には指示はしたがそれ以上は……!」


「しかし……」


「しかしもクソもあるか! 当時の担任の教師もそうだ! なぜ皆、ウチの娘を犯人にしたがる! 貧乏人どものやっかみか!? 俺はそう言う貧乏人どもの為に地域を良くしようと政治家という仕事をしているんだぞ! 感謝される事はあっても、僻まれ妬まれ怨まれる覚えは無い!! とばっちりもいい所だ!」


 私達が目玉狩り事件の本当の経緯を知っていると言う事には気が付いていないようだ。だが目を見ていれば分かる。天正寺は娘が虐めをしていたと言う事実は認識しているのだ。

 勿論天正寺は、世間的には連続殺人事件を起こした目玉狩りの正体が自殺した伊刈早苗の怨霊であるなんて事は知らないだろうし、情報も公開されていないので、そう言う嘘をつき通せると思っていても当然と言えば当然であるが。


 そして、なぜ私達がここに来てきているかも理解していないだろう。


 しかし、支援者だけに媚びへつらって、祭りで踊って機嫌を取って、心の内では金の事と自分の事しか考えていない様な奴が、地域を良くしようなどとよく言えたものだ。


「ではなぜ、天正寺先生のお知り合いであり、同じ市議会議員の飯塚先生や宮崎先生が命を狙われるのです。そう言う指示をされただけなのなら命まで狙われるとは思えません。しかも、二人とも天正寺先生に真っ先に連絡してきたではありませんか。何か裏があるとしか思えません」


「小娘が、粋がるなよ……俺が嘘をついているとでも言いたいのか……?」


 天正寺の拳がわなわなと震えている。件に関する真を問われて、口を開いた時には観念したかと思ったが、ここまで往生際が悪いとは。あくまで自分も自分の娘も無実だと言い張るようだ。


「伊刈の両親からは、僅かですが特殊な瘴痕があったと、とある筋から報告を受けています。我々に似たような職の人間を雇ったのではありませんか?」


「……それは……」


「それに、先程から言っている件も噂じゃない。ご息女が虐めをしていたと言う件は事実ですよね。天正寺先生もそれを知っていたからこそ、変な噂……いや、真実が明るみに出ないように手を回したんでしょう」


 視線を伏目がちに逸らす天正寺。


「記憶にないな……憶測だけで物を言うなと、さっき言わなかったか……?」


「そうですか……全て私の憶測に過ぎないと言うなら仕方ありませんね」


 そう言うと、すっと立ち上がる。日和坂はそんな私を視線で追い、同じく席を立ち上がった。


「下らない事でお時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。では、信頼のない私達は帰らせていただきます。もし何かあっても、せいぜいご自身の身はご自身でお守りください」


「……」


 そんな私の冷たく投げかけた言葉にも返事が無い。

 頭の中で何を考えているのかは大体分かる。『俺は悪くない』その一言だろう。反省しないのだろう。こういう人物は。


「――日和坂、行くよ」


「へい」


 日和坂はそう返事をすると、一切の躊躇いもなくドアに向かう私についてくる。何分くらい話をしていただろう。本当に時間の無駄だった。これだったら学校で授業を受けていた方がどれだけマシだったか。


「ま、待て!」


 部屋を後にしようとする私達の背後から聞こえる天正寺の声。

 振り返り見ると、縋る様な目。明らかに動揺しているのが見て取れる。普通に生活していれば、滅多な事では出会うことの無いような相手だ。考えを巡らせて廻らせて混乱し始めているのだろう。

 呼び止められたが、こいつを救う価値は本当にあるのだろうか。


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