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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-22-1.腹が黒く染まった政治屋【或谷蓮美】

 今、私は門宮市にある天正寺明憲てんしょうじあきのりの自宅にいる。

 今日も午前中だけだが学校はあるのだが、急ぎの用なので連絡を取り、時間を取ってもらった。もちろん、この用事の為に学校は欠席する。


 私達は天正寺の妻に応接間に通され、書斎兼応接間となっているその部屋で日和坂と並んで座っている。部屋に置いてある本棚には難しそうな本や書類がずらりと並べられており、その整頓され並べられた風景から、本人の几帳面さが伺える。そして、派手な置物も無く、シンプルにまとめられた部屋のデザインは、いかにも〝議員先生〟の部屋である。


 生活観を感じないその部屋を見回しているとドアノブのまわる音がし、続いてドアの開く音がした。


 それに反応し立ち上がり、顔を出した男に日和坂とともに一礼をする。

 そして顔を上げて改めてそちらを見ると、しかめっ面をした年配の男が此方を見ている。

 門宮市市議会議員の天正寺明憲だ。普段は親父が相手をしており、私もポスター等でしか顔を見た事が無いので実物をこの目で見るのは初めてだ。

 その顔はポスターで見るにこやかな作られた表情とは違い、いかにも面倒臭い客が来たと言いたそうな顔である。


 そして天正寺は、ドアの方から一言も発さずに私達の方を横目で見ながら、向かいのソファにドカッと腰をかけた。いかにも不機嫌そうなその顰めっ面は、やはり私達が来た事に対して迷惑だと言いたげだ。


「まぁ、座りたまえ」


 その言葉を聞き私と日和坂が席にソファーに腰をかけ直す。


「なんだね、急用とは。今日は昼から議会があるんで準備で忙しいのだがな。要点だけ短くして言ってくれんかね」


 普段、市民に声を掛ける笑顔の議員とは違う。これが本来の顔。

 私の方を見ると、「小娘が何の用だ」と言いたげに、フンッっと鼻で息をする。こういう扱いは慣れてはいるが、腹が立たないわけではない。その気持ちを押し殺し、頭を整理して今回の件を伝える。


「今回、お時間を頂きましたのは天正寺先生の命を狙っている輩が現れまして、それをお伝えに来た次第です」


 天正寺はコッチを見たまま微動だにしない。私の言葉を聞いて少し考えると、一つ息をついて口を開く。


「ふむ、何かね。また去年みたいに悪霊がどうのとか言うのかね? 去年は妻が怖がっていたから仕方なく頼んだが……正直、私はそんなもの信じておらん。幽霊だのなんだの馬鹿らしい。私を金づるだと踏んでまたたかりに来たのなら、こちらとしてもしかるべき措置をたらせて貰うが」


「いえ、そのような事は……」


 手を背もたれにかけ、足を組み、とても客人を出迎えるような態度ではない。まるで相手を詐欺師と決めつけ見下していると言う態度である。

 確かに或谷組に関しては表向きの評判はあまり良いとは言えないというのは私も自覚している。彼も或谷組を詐欺師の集団か何かと思っているのだろう。


「だったらなんだね。やはり金か? 私も忙しいんだ。君等のような怪しい奴等と関わってると知れたら、住民達からの信頼を損ねてしまう。大した用事でもないのなら出来るだけ早く帰ってほしいんだがね」


「つまらない用事であれば、急ぎで取り次いでもらう事など致しません」


「フンッ……。仮にその狙っているって言う輩がいたとしてだな、情報をよこしてくれたというのはありがたいとは思うが、私としては自身が信頼の置けるボディーガードを付けたいと、こう思うが」


「なっ、てめ、去年は誰のおかげで……! こっちはな……!」


「ひよ!」


 天正寺のあからさまな横柄な態度に、堪えきれなくなり食って掛かろうとする日和坂を制止する。

 日和坂には余計な事を言わないよう、黙るように言ってある。それでも私のような学生一人では信用にかけると思い、以前に親父と一緒に面会をしたことがある日和坂を一応同席させている。


 天正寺はそんな日和坂を一瞥し、私に視線を戻す。


「部下の教育がなっとらんようだね。前にお宅の組長と来られた時は、もう少し大人しい男だとは思ったのだが……怖い上司の前で畏まってただけか。まさに、見た目通りの男というわけか」


「申し訳ございません。それで、要件の方なのですが、先程言った輩の事です。私達が出張ってきているとのと、先程も悪霊に関して仰っていたので、薄々はお分かりになられていると思いますが、人間ではありません」


「やはりか。で、今度はいくら私からせびろうと言うのだね。五百か? 千か?」


 金のことしか頭に無いのか、このクソジジイは。二言目には金の話だ。本当に嫌になる。

 組での両面鬼人の出現の失態がなければこんな奴、微塵も助けたくないのに。

 抑えろ、今は抑えるんだ、私……。


「いえ、今回は少々私どもの不手際もありまして……料金を頂こうとは思っておりません」


 それを聞くと天正寺は手と足を元に戻し、腕を組んでだるそうに背もたれにもたれる。


「なるほど、無料か。しかしだね、お嬢さん。私はさっきも言ったように、そう言う人外的な存在は信じておらん。去年の件を了承したのはあくまで妻の願いで御指名もあったからこそだ。お宅等が持ってきた話を『そうかそうか、それならお願いするよ』と信じて頼むと思うかね?」


「難しい事かと思います……」


「だろう? 普通は信じないだろう。タダだからと言ってホイホイ頼んで、おたく等みたいなのに周りをうろつかれるのも迷惑なんだよ。だから、仮に護衛を誰かに頼むにしても、私が信頼を置ける奴等に頼むと言っているんだ」


「しかし、普通の護衛では……」


「私から見たら君のような子供に護衛を頼む方が不安だがね。今日も親父さんの方が来るのかと思っていたらこれだ。子供をよこして私の事を舐めているのか?」


「いえ、そのような事は……父は今……」


「それにだ。そんなものがいたとして、君が私を守りきれると言う保障はあるのかね。護衛と言うものは信頼関係の下に成り立つんだ。私が君等を百パーセント信用していない以上、君等に頼んで任せるには不安しかないな」


 つくづくかんさわるジジイだ。本来ならこんなジジイ殺された所でどうでもいいのだが、ウチで発生して逃した屍霊で死亡者が増えると言うのも或谷組の名前に泥を塗る事になる。

 それに、そんな屍霊を野放しにして何もしないと親父に何を言われるか分からない。


「どちらにせよだね……」


 天正寺がそこまで言いかけた時だった。コンコンコンと、ドアをノックする音が聞こえた。


「なんだ、今来客中だぞ」


 天正寺が返事をすると、若い男が一人顔を出した。恐らく天正寺の秘書だろう。その男は部屋へ入ってくるとメモを一つ天正寺に差し出した。


「電話だ。少し待ってていただけるかね」


「はい」


 天正寺はそう言うと秘書と共に部屋を出て行った。


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