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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-21-2.友達との登校で【陣野燕】

 その後、カバンを取りに部屋へ戻ったお兄ちゃんと影姉かげねぇに顔をあわせることも無く、私は足早に先に家を出た。

 目に入るのは雲ひとつ無い晴れた空、爽快な朝。スズメの軽快な鳴き声が耳に入ってくる。


 やはり昨日の夜にあった事によるもやもやや恐怖心は、覚えていない夢の中の出来事のせいであったのだと確信させてくれるくらいの清々《すがすが》しい朝だ。


「つーばめっ、おはよっ」


 学校へ向かう為に一人でしばらく歩いていると、後ろから声を掛けられる。

 振り向くと、みおがいた。柏木澪かしわぎみお、私のクラスメイトだ。澪とは霧雨学園の中等部に入ってからの友達なのだが、その気さくさから早くも一番の友達になっていた。


「あ、澪おはよー」


 私がそう返事をすると、横に並び顔を覗きこんできた。少し心配するような顔が私の目に入ってきた。


「どしたの、何か顔が暗いよ?」


「え? うん……ちょっとね」


 私が俯いてそう返事をすると、澪は溜息をつく。


「燕、ひょっとしてまだ優美ゆうみの事気にしてる?」


 優美……赤マントに連れ去られて殺されたクラスメイトの事だ。

 気にしていないといえば嘘になる。私も、自分にはどうする事も出来なかったと自分に言い聞かせるしかないと思ってはいるものの、心のどこかに拭いきれないやるせなさが残っていた。


「ダメだよ燕。優美の事は燕には何も責任ないって。他の皆も言ってんじゃん。どうしようもなかった事をいつまでも気にしてくよくよしてたって仕方ないって。そりゃぁ私だってクラスメイトがあんな事になって悲しい気持ちは分かるけどさ……」


「うん、そうだよね……まぁ、それもあるんだけど、家の事でちょっとね」


 そう言うと、澪は少し気まずそうな顔になる。

 流石に家の事にまで口を挟むのはどうかと思ったのだろう。


「あー……家の事かぁ。それだと私はなんとも言えないなぁ」


「ごめんね。くだらない兄弟喧嘩みたいなものだから、澪が気にすることじゃないよ」


 とりあえず澪を心配させまいと軽い嘘をついてしまう。

 本当の所は自分でも何が原因で暗い顔になっているのかよく分からない。でも、心の奥底から湧き上がってくる何かが気持ちを暗くさせているのだ。


「燕が謝る事ないって。どうせいつもぼやいてるクソ兄貴の事でしょー? 一発ビンタでも入れてやったらいいのよ。あはは」


 握りこぶしを作り、勢いよくシュッシュっと手を前後させる澪。

 それはビンタじゃない。パンチだ。と、心の中で突っ込みつつも、少し元気を貰えたような気もする。


「そうだね。ははっ」


 そんな澪に、出来る限り笑顔を作ったつもりで返事を返す。だが、そんな笑顔を見る澪の顔は少し固い。そして、何かを思い出したかのように人差し指をピンと立てる。


「あ、そうだ。燕」


「ん?」


「今日、門宮市駅の近くのショッピングモールで芸人何人か呼んでイベントやるらしいよ」


「へー、そうなんだ」


「ちょっと遠いけどさ、今日は時短の上に学校半日だし終わってから行こうよ。全部は見れないかもしれないけどさ」


 門宮市駅と言うと、隣の市で結構遠い。ちょっとどころではない。ショッピングモール自体は駅のすぐそばにあるのだが、最寄の駅から門宮市駅までが結構距離がある。


「え、でも出歩いてて大丈夫かな? 不必要な外出もできるだけ控えるようにって言ってたし……」


「だーいじょうぶだってー。平日だって暗くなる前まではーって話だったじゃん? 何か知らないけど、見回りしてる人結構見かけるし、それまでに帰れば大丈夫大丈夫。暗い気持ちなんかさ、笑って飛ばしちゃおうよ! ほら、燕の好きなハンバーガーマンもトリで来るって聞いたよ。ほらほら、『ちょっと言ってる意味が分からないんですけど』ってやつ」


 澪が物まねをしながら漫才師のお決まりの文句を言う。似てる似てないは別として、今は正直、お笑いイベントとかに行くような気分じゃない。でも、コレと言って特に用事も無いのに友達の誘いを無下に断るのも悪い気がした。


「う、うん。ハンバ、二人とも見た目は強面こわもてなのに面白いよね」


「それと、最近テレビによく出てる自称霊能力者のセニョール北口も特別ゲストで来るらしいよ」


「へぇ……ちょっと知らないかな……ソッチ系の人がでる番組あんまり見ないし」


「あら、そうなの? つっても、私もそんなに詳しいわけじゃないけどねっ。でも、決まりね! 学校終わったら行こう行こーう!」


 歩きながら大きな声で言う。

 朝から辺りに響く元気な声に、周りを歩いていた他の人は何事かとこちらを見ている。そんな状況が少し恥ずかしかったが、落ち込んでいる自分を励まして元気付けようとしてくれている友達がいるという事がすごく嬉く、幸せに感じた。

 同時に、心も少し落ち着いた様な気がした。

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