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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-20-2.背の高い女【陣野卓磨】

 目が覚めるといつもの天井。俺はそのまましばらくぼーっとしていた。

 見ていた夢は明確に俺の頭の中に残っており、思い出すとあの頃の懐かしさに耽ってしまう。


 今思えば、この時に父さんが言っていた物の記憶と言うのは、最近俺がよく見るアレなのだろうか。


 そして、当事の事を思い出していると、一つ思い出したことがあった。あのキャンプの日、俺は父や母と少し離れて河原で一人になった時に、異様に背の高い、白いワンピースに麦わら帽子をかぶった不気味な女性を見たのだ。


 顔は長い髪の毛で隠れていてよく見えなかったが、こちらを見るその女が発した言葉が特徴的だった。

 いや、言葉と言っていいのだろうか。「ボッ……ボッ……ボッ……」と言う暗く響く声。垂れ下がる髪の毛の隙間から覗く漆黒の穴の様な口から発せられていたのは確かだった。

 俺はその不気味な姿と声に恐怖したのを覚えている。


 そいつは、キャンプが終わって帰宅した後も数日間、家の周りで見かけることがあった。どうやら俺にしか見えていないようで、友惟ともただ霙月みつきと遊んでいる時にそいつの存在を口に出しても信じてもらえる事は無かった。


 事態が急変したのはその後の事だった。

 爺さんと庭で遊んでいた時にそいつが家の塀の向こうから、例の声を発しながら家の中を覗いていた。爺さんにその事を言うと、爺さんは血相を変えて俺の手を取り家の中へと入っていった。


 それからの事はよく覚えていない。ただ、父さんが死んだのは、それから数日後だった気がする。母さんが病気がちになったのもこの頃からだった。あいつが何か関係していたのだろうか。なぜ今この夢を見たのだろう。なぜ今この事を思い出したのだろう……。


 結局、キャンプの日に出会ったあの背の高い女は何だったのか今でも分からない。

 気がついたら、いつの日からかそいつが俺の周りをうろつく事はなくなっていた。そして、母さんも爺さんも婆さんも、父さんがなぜ死んだかを教えてくれる事は無かった。


 当時の記憶は幼かったこともあってかあやふやな部分が多く思い出せない部分も多いのだが、葬式の日に俺は泣きじゃくっていたのは覚えている。

 婆さんに抱かれた腕の中で、何も分からず何も知らずにキャッキャと笑う燕が印象的だった。

 父さんの棺の横には……なんだ、何かが置いてあった気がする。普段、普通に生活していて目にする事の無い様な物……。でも最近見た事がある物という気もする。思い出せない。当事の俺にとってはなんら気にする物ではなかったと思うが、今の俺にとってすごく大事な物だったような気がする。


 …………。


 まてよ……。キャンプの日に家で留守番をしていたのは爺さんと婆さんと燕の二人だけだったか?


 もう一人、誰かいた気がする。昔よく家に来ていた赤鷺のおじさんだっただろうか。違う。女性だったような……しかし、思い出そうとすると頭がガンガンと響いて痛くなってきた。

 同時に「ボッ」という不気味な音が耳に響く。その音に不快感を感じ、意識せずに思い出す事をやめてしまう。


 あの付近の時期の記憶はあやふやな物が多い。コレは本当に俺が幼かったからという理由だけなのだろうか。

 まるで、記憶のその部分にだけ霧をかけられたかのように、誰かに隠されてしまっているような違和感を感じる時もある。

 しかし、昔の記憶の事となると、俺の記憶も影姫と変わらないな。


 そんな事を考えると影姫が部屋に入ってきた。


「卓磨、朝飯だ。起き……なんだ、起きているのか」


「ああ」


 返事をして身を起こすと体がだるい。寝起きだから、というわけでもなさそうなだるさだ。


「私は着替えるから先に下へ降りてろ」


「ああ」


 そう返事をし、手早く制服に着替える。影姫の前で着替える事も抵抗がなくなってきていた。


 そして俺は部屋を出た。

 階下からは味噌汁のいい香りがする。

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