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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第1部・第三章・鬼の少女と赤マント
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3-19-3.守るべきものは【陣野千太郎】

 出来る限りの力を振り絞り、街を駆け抜け家に到着する。幸い家まで差ほどの距離はなかったので、何とか燕を背負ったまま走りきる事が出来た。そして、屍霊が追って来ているという気配は全く無かった。


 玄関に入り燕を下ろすと、奥から影姫が駆け寄ってきた。


「千太郎、燕、どうしたんだ!?」


 全身汗だくになりながら肩で息をして玄関に座り込む私と、意識を失い倒れている燕を見て影姫が駆け寄ってきた。普段あまり感情を表に出さない影姫があからさまに顔色を変えている。


「話は後じゃ。ゼェゼェ……とりあえず、燕を部屋に運んでやってくれ……ゼェゼェ」


 息も絶え絶えで返事もままならない。


「わ、わかった」


 影姫は慌てながらもそう言うと、とりあえずは燕を背負い理由も聞かずに二階へと運んで行った。


◆◆◆◆◆◆


 食卓の椅子に腰掛け体を休める。食卓には卓磨の食事だけが籠をかけて残されている。まだ帰っていないようだ。本当に遅い。それとも食事を取らずに自室で休んでいるのか。

 しかし、戻っていないとしたら、あの二匹がこの近辺をうろついていると分かった以上、卓磨も襲われたんじゃないかという不安が襲ってくる。どうすればいいのか分からない。探しに行こうにもアテが思い浮かばない。まだ中頭の所にいるという可能性もある。連絡を入れてみるべきか。

 それよりも先に、機構に新しい屍霊の発生について連絡を入れるべきか……アヤツらも赤マントの復活については把握しているはず。


「千太郎、何があったんだ」


 影姫は燕を部屋へ運び終えると、私が休憩している食卓へと足早に戻ってきた。


「まさか……」


 未だ息の整わないワシを見て、影姫が何事かを察する。恐らくその察しは正解であろう。知っている者が見れば、ワシの顔、ワシの状態を見れば一目瞭然である事は間違いない。


「そのまさかじゃ。屍霊、屍霊に襲われた」


「赤マントか?」


「ああ、赤マント……正確には赤マントの怪人()だ。もう一体いた。見た事のない奴じゃ。先に襲ってきたのは赤マントじゃったが……迂闊じゃった。大人が付き添っていれば少しは大丈夫と思い込んでいた。しかも質問に答えていないのに、早々と自己結論を出して襲ってきおった。今までとは勝手が違うぞ……赤マントの依代となった人物の怨念が強すぎるのかも知れん。もしくは、赤マントが取り付く依代のタイプを間違えたか……封印されていた元の自我を持った赤マントの怪人の屍霊が、取り憑いた依代を制御しきれておらん感じがした」


「赤マントの他にもう一体……だと……。赤マント一体だけでも厄介だと言うのに……。しかし、二人とも無事でよかった」


 そう言い、険しい表情も一転、影姫が安堵の表情で向かいの椅子に腰掛ける。


「運良く二体の刃が弾き合ってな。逃げる隙が出来た。あの後どうなったかは分からんが……」


「なるほど。それでお互いが睨み合いでもしたのか。そのまま二匹とも消えてくれれば万々歳なんだが……それで卓磨は見つかったのか? 中頭の方に電話をしてみたが、とっくに学園を後にしたと言っていたぞ」


 やはり、卓磨はまだ帰っていないのか。中頭なかがみの家を出てから、どこをほっつき歩いているのか。おかげで酷い目にあってしまった。新たな屍霊が徘徊しているという新事実が発覚したのはありがたいと言えばありがたい事だが、寿命が縮まる思いだ。状況によっては寿命どころではなかった。


 それにしても、今回影姫が目を覚ましてからと言うもの、屍霊の発生頻度が異様に高すぎる。何か嫌な予感がする。


「いや、近くで行きそうな所は探したんじゃが……卓磨も普段どこに行くとか言わんから、ワシも燕も思い当たる場所が少なすぎてな。結局見つからなんだ」


「そうか……その新しい屍霊の事も気になるし、私が探しに行こう。私なら契約者として近くにいれば何か感じ取れるかも知れん。千太郎は家で休んでいてくれ」


「すまんな、そうさせてもらう。体中が悲鳴上げとるわい」


 息が落ち着いたら然るべき場所に連絡をいれる必要があるな。

 あわよくば機構から誰か助けがよこされるかも知れん。


「だが、一度狙われた身だ。万が一の時は……」


「ああ、わかっとるよ。ワシとて。守るべきモノはわかっとる」


 かっこつけて言ってみたのはいいものの、膝も腰もじわじわと痛みが広がってくる。

 もう、次があるのならば躊躇しない事を心に誓う。自分の今の力を信じるしかない。

 だが、やはり不安もある。万が一なんて事が起こらない事を願うしかなかった。

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